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認知症の食事拒否はなぜ起きる?原因の見極め方と対応を看護師が解説

公開: 2026年6月10日

認知症の食事拒否はなぜ起きる?原因の見極め方と対応を看護師が解説

「食べてくれない」と悩む家族介護者の方は、とても多いです。認知症が進むと食欲が落ちるのは確かですが、「認知症だから仕方ない」と片付けてしまうのは少し待ってください。

食べない理由には、大きく3つの系統があります。どれが原因かを見極めると、対応の方向性がはっきり見えてきます。この記事では、看護師・介護福祉士として15年間、多くのご家族と一緒に考えてきた視点から、原因の整理と安全な対応のポイントをお伝えします。


まず確認する3つのこと

  1. 最後に食べた(または飲んだ)のはいつか
  2. 今日、熱・むせ・便秘・口の痛みはないか
  3. 最近、薬が変わったり追加されたりしていないか

この3つを確認してから、以下を読み進めてください。


今すぐ受診のサイン(該当したらその日のうちに医療機関へ)

  • 24時間以上、水分をほとんど摂れていない
  • 発熱・激しいむせ・呼吸が速い・ぐったりしている
  • 意識がぼんやりしている、呼びかけへの反応が薄い
  • 急に食べなくなった(数日以内の急激な変化)

上記に当てはまる場合は記事を読む前に、かかりつけ医または救急への連絡を最優先にしてください。夜間・休日の場合は、救急相談ダイヤル(#7119)や救急外来に電話で相談できます。


危険なサインがなければ、ここから一緒に原因を探していきましょう。食べない原因は「認知機能・身体・心理と環境」の3つの系統で確認していくと、見極めやすくなります。

原因は「3つの系統」で考えると整理しやすい

食事拒否の原因を整理するとき、私は現場で「認知機能・身体・心理と環境」という3系統で考えます。

3系統に分けて考えると、「なぜ食べないのか」が見えやすくなり、家族の方が試せる工夫と、専門家に相談すべき問題を区別しやすくなります。

それぞれ順番に見ていきましょう。


原因1:認知機能の変化

認知症によって、食事に関わる脳の働きが変化することがあります。

食べ物だと認識できない(失認)

失認とは、目は見えているのに「何であるか」がわからなくなることです。白いテーブルの上に白いお皿を置くと、食べ物だと認識しにくくなる場合があります。

こんな工夫が助けになることがあります。

スプーンや箸の使い方がわからない(失行)

失行は、道具の使い方がわからなくなる状態です。スプーンを渡しても戸惑っている様子なら、まず介護者が自分で食べているところを見せる(モデリング)と、まねして口に運んでくれることがあります。

注意が散りやすい(注意障害)

テレビの音や人の声が気になって、食事に集中できないことがあります。食事中はテレビを消し、なるべく静かな環境を整えることが助けになる場合があります。

認知症の種類によって傾向が変わる

同じ「食べない」でも、認知症の種類によってパターンが違います。

前頭側頭型認知症では逆に、食べすぎや甘いものへの強い偏食が起きやすいとされています。一方、レビー小体型認知症では、嚥下(えんげ=食べものを飲み込む働き)の障害が比較的早い段階から現れることがあると報告されています。

「うちの人はアルツハイマーだから」と決めつけず、担当医に「どのタイプで、食事面は何に気をつければいいか」を一度確認しておくと安心です。


原因2:身体の問題

認知症があると、痛みや不調をうまく言葉で伝えられないことがあります。「食べたくない」という行動の裏に、身体の問題が隠れていることは少なくありません。

口の中のトラブル

虫歯・入れ歯の不具合・口内炎・歯肉炎などがあると、噛むことが痛くて食べられません。

認知症の方は「歯が痛い」と伝えられない場合が多いです。口を開けて食べ物を確認してくれない、頬に手を当てている、片側だけで噛んでいるといったサインに気づいたら、訪問歯科や地域の歯科医院に相談してください。

便秘や隠れた体調不良

便秘があると食欲が落ちます。また、誤嚥性肺炎(食べものや唾液が肺に入って起きる肺炎)の初期症状が、「なんとなく元気がない」「食欲がない」だけで現れることがあります。

誤嚥性肺炎は、令和4年の人口動態統計(確定数・厚生労働省)によると、日本人の死因第6位で年間約5万6,000人が亡くなっています。また、日本の多施設研究では、70歳以上の入院を要する肺炎のうち誤嚥性の割合が約7〜8割と報告されています(Teramoto et al. 2008)。

発熱がなくても、急に食べなくなった・元気がないという場合は誤嚥性肺炎の可能性があります。 かかりつけ医にすぐ相談してください。

薬の影響

コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル・リバスチグミン・ガランタミンなど、認知症の症状の進行を緩やかにする目的で使われる薬)は、吐き気・食欲低下などの消化器症状が出ることがあります。

「薬を飲み始めてから食欲が落ちた気がする」という場合は、自己判断で薬を中止せず、必ず主治医に相談してください。 剤型の変更や量の調整で対応できる場合があります。


原因3:心理・環境の問題

認知症の方も、孤独感や環境の変化に敏感です。

抑うつ

認知症に抑うつが合併することは珍しくありません。食欲低下・意欲の低下・表情が暗くなるといった変化が続くようなら、主治医に「抑うつの可能性はないか」と相談してみてください。

孤食と環境の変化

一人で食べている、慣れない場所での食事、食卓の雰囲気が変わったといった環境の変化が、食欲に影響することがあります。


【現場コラム】作った食事を食べてもらえない、そのつらさ

家族の方からよく聞く言葉があります。「一生懸命作ったのに手をつけてもらえなくて、泣きそうになった」というものです。

私が関わってきた家族の中にも、毎食を本当に丁寧に準備していた方がいました。それなのに食べてもらえない。「自分がいけないのか」と自分を責めてしまう方もいます。

でも、食べないのは家族の方のせいではありません。この記事で整理したように、認知機能・身体・心理や環境に原因があることがほとんどです。

それから、毎食手作りでなくて大丈夫です。市販のお惣菜や宅配食を使うのも、立派な工夫の一つです。

もし介護疲れを感じていたら、一人で抱えないでください。→ 認知症介護に疲れたら


チェックリストと対応の工夫

原因の見当がついたら、次に紹介するチェックリストで状況を整理してみてください。

食事場面のチェックリスト(5項目)

対応の工夫:安全を最優先に

無理に食べさせることはしないでください。 嫌がっているときに無理に食べさせると、誤嚥のリスクが高まります。

試してみると助けになることがある工夫をまとめます。

食べてもらう前の安全ポイント4つ

工夫を試す前に、誤嚥を防ぐための基本も押さえておきましょう。

  1. 姿勢を起こす:できるだけ椅子に深く座り、上体を起こした姿勢で(ベッド上なら背を十分に上げる)
  2. 眠いとき・ぼんやりしているときは食べさせない:覚醒が悪いときの食事は誤嚥のリスクが高くなります
  3. 一口の量を少なく:スプーンに山盛りにせず、少量ずつゆっくり
  4. 食後すぐに横にならない:食後しばらくは座った姿勢で過ごす(逆流による誤嚥を防ぐため)

食形態についての3つの誤解

食べにくそうなとき、食形態(食事の硬さや形)を工夫したいと思う方は多いです。ただし、よかれと思った対応が逆効果になることもあります。

誤解1:刻み食にすれば安全

細かく刻んだ食事は口の中でまとまりにくく、バラバラになった食片が気管に入りやすくなることがあります。健康長寿ネット(長寿科学振興財団)でも、刻み食が誤嚥・窒息リスクを高める場合があると指摘されています。

誤解2:とろみをつければ大丈夫

とろみは嚥下を助けることがありますが、濃すぎると咽頭(のど)に残留しやすくなり、かえって誤嚥につながるリスクがあります。適切なとろみの濃さは、その方の嚥下機能によって一人ひとり異なります(学会による標準的な段階分けも定められています)。市販のとろみ剤を自己判断の濃さで使い続けるのは避けたいところです。

誤解3:むせていないから問題ない

むせは誤嚥のサインですが、「不顕性誤嚥」といって、むせずに静かに食べ物や唾液が肺に入ってしまうことがあります。特に高齢者や認知症の方に多いとされています。

食形態の変更は、ST(言語聴覚士)や管理栄養士の評価を受けてから行うことをお勧めします。 かかりつけ医やケアマネジャーに「嚥下の評価をしてほしい」と相談すると、専門家につないでもらえます。


誤嚥性肺炎と体重減少:見逃せないサイン

食べる量が減ると、体重と栄養状態の低下が起きます。

体重の変化に気をつけて

国際的な低栄養の診断基準であるGLIM(グリム)基準では、6か月以内に5%以上の体重減少は、低栄養を疑う重要なサインの一つとされています。体重50kgの方であれば、2.5kg減った段階が注意のラインです。

月に一度、体重を記録する習慣をつけると変化に早く気づけます。

こんなときは受診・相談を

以下のいずれかに該当する場合は、一人で判断せず専門家に相談してください。

相談できる専門家

相談先内容
かかりつけ医全体的な状態評価・他職種への紹介
訪問歯科口腔内トラブル・義歯の調整(嚥下に詳しい歯科への相談も)
ST(言語聴覚士)嚥下機能の専門的な評価と訓練
管理栄養士食形態・栄養補給の提案
訪問看護師在宅での継続的な観察とケア
ケアマネジャー・地域包括支援センター上記専門家への橋渡し・サービス調整

どこに連絡していいかわからなければ、まずケアマネジャーまたはかかりつけ医に電話するとスムーズです。

病状の進行に伴う場合

認知症が進む中で、医学的に食べることが難しくなる時期が来ることもあります。その場合は主治医とよく相談してください。**人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)**という、本人や家族が医療・ケアの方向性を話し合うための仕組みも活用できます(厚労省 2018年ガイドライン)。


まとめ

認知症の食事拒否は「認知機能・身体・心理と環境」の3系統から原因を探ることが、対応への第一歩です。無理に食べさせることは誤嚥のリスクを高めます。食形態の変更はST・管理栄養士の評価を受けてから判断してください。体重の変化や急激な食欲低下は早めにかかりつけ医へ相談することが大切です。



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次のステップ

まずケアマネジャーまたはかかりつけ医に電話を。 「食事を食べてくれない」「体重が減ってきた」「むせが気になる」、そのままの言葉で伝えてください。一人で解決しようとしなくて大丈夫です。


主な参考資料

※統計・制度の情報は各公表時点のものです。受診の判断に迷う場合は、かかりつけ医・救急相談(#7119)にご相談ください。


執筆者:宮田浩行
看護師・介護福祉士。医療・介護の現場で15年(看護師8年・介護福祉士7年)。現在は医療ライターとして、現場目線の情報発信を続けている。


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