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認知症で「家に帰る」と出て行く理由と徘徊の対応・防ぎ方【現役看護師が解説】

公開: 2026年6月4日

認知症で「家に帰る」と出て行く理由と徘徊の対応・防ぎ方【現役看護師が解説】

用語についての一言
近年は「ひとり歩き」と言い換える自治体が増えています。本記事は検索の便宜上「徘徊」も使いますが、本人の尊厳を大切にする言葉として「ひとり歩き」も併用します。


「また出て行こうとしてる…」

夕方になると玄関に向かい、止めると怒り出す。同じことが毎晩続いて、眠れない日が増えてきた。「もう限界かも」と感じている方は、決して少なくありません。

この記事では、なぜ「家に帰りたい」と繰り返すのか、その理由から始めて、やってはいけない対応、すぐ使えるコツ、環境の工夫、行方不明になったときの初動、そして一人で抱えないための相談先まで、現役看護師・介護福祉士の視点でまとめました。

毎晩疲弊しているあなたに、少しでも「そういうことか」と思える情報を届けられたらと思います。


「徘徊」はあてもなく歩く、ではない|本人には切実な目的がある

「今どこにいるかわからない」恐怖が、外に向かわせる

認知症の中核症状に「記憶障害」と「見当識障害」があります。

見当識障害とは、今が何年で、ここがどこで、自分が誰といるのかが、正確にわからなくなる状態です。難しい言葉ですが、もう少し具体的に言うと、「今は2026年、自宅にいる」という情報が脳にうまく届かなくなることを指します。よくあるのが、記憶が数十年前に戻り、その時代にいるように感じてしまうケースです。

たとえば、80代の方が30代の感覚でいると、「今いる場所」は知らない家に思えます。知らない人が自分の面倒を見ている。怖くて当然です。「帰りたい」と思うのは、その不安から逃げようとする、ごく自然な反応とも考えられます。

なお、出て行こうとする背景には、こうした見当識障害だけでなく、不安・退屈・痛み・便秘・空腹・薬の影響など、さまざまな要因が重なっていることもあります。「これが理由」と一つに決めつけず、本人の様子をよく見ることが大切です。

帰宅願望は、BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)のひとつとされています。中核症状に加えて、不安・孤独・環境へのストレスが重なることで引き起こされると、厚生労働省の認知症施策でも示されています。

「帰りたい家」は今の家ではなく、安心できた過去の場所

「ここがあなたの家でしょう」と伝えても、なかなか納得してもらえない。そう感じた経験はありませんか。

それは、説明が足りないからではありません。本人が「帰りたい」と思っている家は、今住んでいる家ではなく、若い頃に暮らした実家や、子育てをした家であることが多いのです。記憶が数十年前に戻っているなかで、現在の自宅は「知らない場所」です。いくら説明しても、脳がその情報を受け取れない状態にあります。

また、夕方から夜にかけて帰宅願望が強まりやすいのも特徴です。体内時計の乱れや薄暮の光の変化、一日の疲れが重なることで、不安が増しやすくなります。このことは「夕暮れ症候群」とも呼ばれています。詳しくはこちらの記事も参考にしてください。

認知症の夕暮れ症候群とは?

「仕事に行かなきゃ」「子どもが待ってる」も、同じ理由から

帰宅願望と同じように多いのが、「会社に行かなきゃ遅刻する」「子どもが学校から帰ってくる」という言葉です。

これは「作り話」でも「わがまま」でもありません。脳の中で生きている時代が、現役だった頃や子育て中の頃だからです。その時代にとって、仕事も子どもの迎えも、大切な責任でした。本人は真剣です。


現場コラム①

訪問介護でお会いした80代の女性の話です(実名・個人特定を避けるため複合的なエピソードとして記載します)。

夕方になると「子どもを迎えに行かなきゃ」と玄関に向かうのが毎日の習慣になっていました。実際には子どもはもう50代。でも、本人の記憶のなかでは、子どもはまだ小学生で、今日も学校から帰ってくる時間なのです。

最初のころ、ご家族は「お子さんはもう大きいですよ」と何度も伝えていました。でも本人は「そんなはずない」と怒り、混乱が深まるだけでした。

転換点は、「止める」のをやめて「本人の世界に入る」ことにしたときです。「子どもさん、今日は遠足だから少し遅いって電話がありましたよ」と伝えると、「そうなの、じゃあ待ってようかな」と椅子に戻ってくれました。

本人が生きている感情や現実を受け入れて関わるこうしたコミュニケーションは「バリデーション」と呼ばれ、認知症ケアで使われる考え方の一つです。大切なのは、本人が生きている世界を否定しないこと。これは毎回うそで言いくるめることではなく、本人の不安そのものを受け止め、安心して待てる言葉を一緒に探す、という関わり方です。


やってはいけない対応|否定・説得・力ずくが逆効果なワケ

「ここがあなたの家でしょ」は、なぜ通じないのか

「現実を伝えれば理解してもらえる」と考えてしまうのは自然なことです。しかし、見当識障害が進んでいる状態では、現実の説明は脳にうまく届きません。

認知症介護研究・研修東京センターが公開している情報でも、訂正や説得はかえって混乱や怒りを引き起こしやすいことが指摘されています。説明しても伝わらない、また怒らせてしまった、という繰り返しで介護者が消耗していくのは、方法が間違っているのではなく、認知症の特性と対応がすれ違っているからです。

力ずくで止めると「ここは怖い場所」になる

腕をつかんで引き止める、大きな声で「ダメ!」と制止する。緊急時にはやむを得ない場面もありますが、これが繰り返されると、本人の中で「この場所は怖い、この人は怖い」という印象が固定されていきます。

その結果、落ち着いている時間でも不安が高まりやすくなり、むしろ外へ出ようとする行動が増えるケースがあります。力ずくの制止は、短期的には止まっても、長期的には逆効果になりやすいのです。


今すぐ使える対応のコツ|気持ちを受け止めて一緒に動く

まず、気持ちを受け止める声かけを

最初の一言が大切です。否定や説得ではなく、感情をそのまま受け止める返し方を試してみてください。

たとえばこんな声かけです。

安全が確保できる状況であれば、少し一緒に歩いてみるのも有効です。歩きながら話すうちに気持ちが落ち着き、「そういえばお腹すいたな」と自然に戻れることがあります。

注意をそらす・「役に立っている」感覚を引き出す

「外に出たい」という気持ちの根っこには、不安や孤独が隠れていることが多いです。その不安を和らげる別の入り口を作ることが、対応のコツのひとつです。

「必要とされている」「役に立っている」という感覚が、不安を和らげることがあると、認知症介護研究・研修東京センターも示しています。家事の一部をお願いするのは、本人の尊厳を守ることにもつながります。

安心できる環境と言葉を用意しておく

好きな音楽、なじみの椅子、いつものお茶。落ち着ける「定位置」を作っておくと、気持ちが向きやすくなることがあります。

「今夜はここに泊まっていきませんか」という声かけが、状況によって有効な場合もあります。「知らない場所にいる」感覚を和らげ、「この人は敵ではない」という安心を届けることが目的です。


徘徊・ひとり歩きを防ぐ環境の工夫

気づく仕組みを先に作っておく

出て行くことを完全に防ぐのは難しいですが、「気づけない」をなくすことは今日からできます

GPS機器などを活用して発見された事例では生存が報じられており、早期に居場所を把握する備えが、発見の助けになる可能性があります。

出口を「目立たなくする」工夫

玄関に大きな鏡を置くと、自分の姿が映り、ひるんで引き返すケースがあります。また、玄関ドアに暗幕や目隠しシートを貼ることで、扉の存在が視界に入りにくくなる場合があります。

補助錠や、手の届きにくい高い位置への鍵の設置も選択肢のひとつです。ただし、施錠は本人の自由を制限する行為であり、行きすぎると身体拘束につながりかねない、慎重に扱うべき対応です。まずはセンサーや見守り、地域の事前登録といった「閉じ込めない工夫」を優先し、施錠は最終手段と考えてください。

どうしても必要な場合も、火災や地震のときに必ず開けられること(家族全員が鍵の場所を把握する、緊急時にすぐ解錠できる錠を選ぶ)を確認したうえで、必ずケアマネジャーや主治医、地域包括支援センターに相談してから決めるようにしてください。

地域とのつながりと、日中のリズムを作る

顔写真や連絡先を地域で共有するときは、本人の尊厳やプライバシーへの配慮も大切です。やみくもに配るのではなく、まずは自治体の「認知症SOSネットワーク」や「見守り登録」、民生委員や地域包括支援センターを通じた共有を優先すると安心です。多くの自治体にこうした制度があります。まだ事前登録をしていない場合は、何かあってからではなく、今のうちに地域包括支援センターに問い合わせて登録しておくことをすすめます。なじみの商店などへ個別にお願いする場合も、共有する範囲を家族で決めておきましょう。

日中に外出や体を動かす機会を設けることで、夕方の帰宅願望が落ち着くケースもあります。昼夜のリズムを整えることが、結果的に夕方の不安を和らげることがあるためです。


行方不明になってしまったら|命を守る初動の備え

「うちは大丈夫」と思っているうちに

警察庁の発表(2025年6月公表)によると、2024年に行方不明として届け出のあった認知症の方は1万8,121人にのぼります。1日に換算すると約50人です。

発見時に亡くなっていた方は491人。そのうち約78%(382人)が、いなくなった場所から5km圏内で見つかっています。死亡が確認された場所としては河川・河川敷、用水路・側溝、山林などが多く報告されており、ごく身近な場所で、取り返しのつかないことが起きています

この数字をお伝えしたいのは、不安を煽るためではありません。早く気づける仕組みと事前の備えがあれば、命を守れる確率は大きく上がる、ということを知ってほしいからです。

今日から準備できること

行方不明になってから慌てるのではなく、前もって準備しておくことが大切です。

気づいたら、すぐ110番を

「大げさかな」「もう少し自分で探してから」と思う気持ちはわかります。でも、認知症の方の行方不明では、数時間以内に発見できるかどうかが生死に関わることがあります

警察への届け出に「時間を置かないといけない」という決まりはありません。気がついたらすぐ110番してください。

電話で伝えるとスムーズな情報を、普段からまとめておくと安心です。

早く気づいて、早く動く。その積み重ねが、無事の帰宅につながります。


介護している「あなた」は悪くない|毎晩の限界は当然のこと

「閉じ込めるしかないのか」の葛藤は、みんな抱えている

鍵をかけることへの罪悪感、「自由を奪っているんじゃないか」という葛藤。これを感じていない介護者はほとんどいません。むしろ、その罪悪感を持てること自体が、本人への愛情の証です

同時に、転落・行方不明・夏の熱中症・冬の低体温症。外に出た先には、現実のリスクがあります。安全を確保しようとすることは、介護の「失敗」ではありません。

厚生労働省の調査(令和元年 国民生活基礎調査)でも、在宅で介護している方のおよそ7割が、悩みやストレスを抱えていると報告されています。あなたが疲れているのは、あなたが弱いからではありません。多くの介護者が、同じように消耗しながら踏ん張っています。


現場コラム②

ある50代の息子さんのことを思い出します(複合エピソードです)。認知症のお父さんが毎晩夕方に出て行こうとするのを3か月間、仕事から帰るたびに止め続けていました。

「体重が5kg落ちました。自分がちゃんとできていないから父が落ち着かないのかと思って」

そう話してくれたとき、私はしばらく言葉が出ませんでした。

でも、これだけははっきり言えます。一人で24時間、認知症の人を守り続けることは、人間の限界を超えています。プロの介護職でも、交代しながら複数人で対応しています。一人でやり続けることが正解ではないのです。

息子さんにデイサービスの利用を提案すると、最初は「逃げているみたいで」と抵抗がありました。でも利用を始めて2週間、お父さんは日中に体を動かすようになり、夕方の帰宅願望が目に見えて落ち着いてきました。「俺が限界になるより、こっちのほうが父のためになってた」と後から教えてくれました。


一人で見守るのは限界。分散することが正解

デイサービスやショートステイは「サボり」でも「逃げ」でもありません。介護者が休むことは、結果として本人のためになります

日中にデイサービスを利用することで生活リズムが整い、夕方の帰宅願望が落ち着いてくるケースは少なくありません。ショートステイで数日離れることで、介護者が十分な睡眠を取り、その後の対応にゆとりが生まれます。そのゆとりが、本人の安心にもつながります。

「まだそこまでしなくていい」と思っている方も、今すぐでなくて構いません。ただ、選択肢として知っておくことが大切です。使えるときに使えるよう、今から情報を集めておいてください。


一人で悩まないための相談窓口

まず「地域包括支援センター」に電話する

地域包括支援センターは、介護に関するあらゆる相談を受け付けている窓口で、市区町村に必ず設置されています。

お住まいの市区町村のホームページで「地域包括支援センター」と検索すると、最寄りのセンターの電話番号が確認できます。

こんな症状も重なっていませんか。

認知症の物盗られ妄想への対応
認知症で同じ話を繰り返す理由と対応法

電話で話せる相談窓口

認知症の人と家族の会 全国電話相談

同じ立場で介護をしてきた相談員が対応してくれます。「誰かに話を聞いてほしい」という段階でも利用できます。

かかりつけ医・主治医への相談
夕方の落ち着かなさが強いときは、薬の調整が役立つこともあります。ただし薬を使う前に、まず痛み・便秘・脱水・睡眠不足・環境の変化など、落ち着かない原因が隠れていないかを確認することが大切です。薬には眠気やふらつきなどの副作用もあるため、必要性と副作用を主治医とよく相談しながら検討します。受診のときは「夕方から帰りたがって困っている」と具体的に伝えてみてください。


まとめ

認知症による「家に帰りたい」という行動は、あてもなくさまよっているわけではありません。本人には切実な目的があり、その気持ちを受け止めることが最初のステップです。

否定・説得・力ずくは逆効果になりやすく、共感と声かけ、注意のそらし方、環境の工夫を組み合わせることが、現場で役立つアプローチです。GPSやセンサーの備えは命を守る可能性を高め、事前登録は早期発見を助けます。

そして、毎晩疲弊しているあなたが悪いのではありません。一人で24時間守り続けることが正解ではなく、分散して支えることが、本人のためにも介護者のためにもなります。


今日から、一つだけ

たくさんお伝えしましたが、全部を一度にやる必要はありません。

今日できることを、一つだけ選んでみてください。地域包括支援センターに電話してみるか、玄関にセンサーチャイムを一つ置くか、どちらか一方でも構いません。備えが一つあるだけで、今夜の不安は少し違ってきます。

あなたの「疲れた」という気持ちは、助けを求めていいサインです。


免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・介護の個別アドバイスではありません。症状や状況は一人ひとり異なります。対応に迷った場合や、状態の変化が気になる場合は、かかりつけ医・地域包括支援センター・担当ケアマネジャーにご相談ください。


執筆者プロフィール

宮田浩行(みやた・ひろゆき)

看護師・介護福祉士・医療ライター。医療・介護現場での15年の経験をもとに、一般の方に向けた医療福祉情報を発信しています。現場で見てきたことを、難しくなりすぎず、でも正確に届けることを大切にしています。

X(旧Twitter):@miyata8hiroyuki


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