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認知症の異食(いしょく)とは?危険なもの・対応・緊急時の連絡先を解説

公開: 2026年6月28日

認知症の異食(いしょく)とは?危険なもの・対応・緊急時の連絡先を解説
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

台所を離れた数秒。戻ってみると、親がティッシュを口の中に押し込んでいた——。

そんな光景に出くわしたとき、頭が真っ白になる感覚は、介護している方なら少なくないと思います。「自分がそばにいなかったから」と自分を責めてしまう気持ちも、とてもよく分かります。

でも、ここで最初に伝えさせてください。

異食は認知症の症状であり、介護の失敗ではありません。 目を離した隙に起きたのではなく、認知症という状態が引き起こしている行動です。この記事では、異食がなぜ起きるのか、何が特に危険で、どう対応すればいいのかを順を追って解説します。


⚠️ まず確認してください(緊急のとき)

飲み込んだものや本人の様子によって、最初にすべき連絡先が変わります。

  • 声が出せない・顔や唇が青紫・ぐったりして反応が鈍い・けいれん → 迷わず119番(救急車)
  • ボタン電池・磁石・とがったもの・強い洗剤や漂白剤を飲み込んだ(疑い含む) → すぐに救急外来を受診
  • 何を飲んだか分かっていて、本人は比較的落ち着いている → まず「中毒110番」に電話して指示を仰ぐ
    • 大阪:072-727-2499(365日24時間)
    • つくば:029-852-9999(365日24時間)
    • たばこ専用(自動音声):072-726-9922
  • 自己判断で水・牛乳を飲ませたり、吐かせたりしないでください。 飲み込んだものによっては、かえって危険になります。

詳しい応急処置は、記事後半の「緊急時の対応」で解説します。


「異食(いしょく)」とは何か

食べ物以外を口に入れてしまう行動

異食とは、食べ物ではないものを口に入れてしまう行動のことです。

ティッシュ、石けん、土、紙、プラスチック製品、薬のシート……対象になるものは非常に多岐にわたります。一回だけのこともあれば、繰り返し起きることもあります。

異食は「BPSD(認知症の行動・心理症状)」のひとつとされています。BPSDとは認知症に伴って現れる行動や心理の変化の総称で、文献では認知症のある方の約60〜90%に、何らかのBPSDがみられるとされています(日本認知症学会・日本老年精神医学会「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」2025年)。つまり、認知症のある方にとってBPSDは珍しくない症状です。

異食が起きやすいタイミング

異食は、認知症の進行に伴って起こりやすくなることがあるとされています。

なかでも前頭側頭型認知症では、国際的な診断基準の中に「口唇的探求または異食症」という項目が支持症状として挙げられており、比較的早い段階から目立つこともあるとされています(難病情報センター参照)。

ただし、「進行すれば必ず起きる」「前頭側頭型だけに起きる」ということではありません。個人差が大きく、どのような状況のときに起きやすいかも人によって異なります。


なぜ異食が起きるのか——考えられる背景

「これは食べ物か」の判断が難しくなる

認知症が進むと、目の前のものが「食べられるか食べられないか」を識別する力が低下することがあります。

たとえば、錠剤を飲もうとした際にボタン電池を手に取ってしまう、洗剤の容器を飲み物だと思って口をつけようとする、といったことが起きます。「まさかそんな」と感じるかもしれませんが、認知症のある方にとっては、その判断自体がとても難しくなっていることがあるのです。

空腹・口さみしさ・過去の習慣が影響することも

空腹感があるとき、あるいは口の中に何か入れたいという感覚(口さみしさ)があるとき、手近なものを口に入れてしまうことがあります。

また、長年の習慣が関係していることもあります。「昔はよく何かを噛んでいた」「常に口を動かしていることが多かった」という方は、その記憶が残っていることがあります。

「なぜ?」は一つではない

異食の背景は、一つに絞り込めないことがほとんどです。

識別力の低下、空腹感、口の刺激を求める感覚、環境の中にある危険なものの存在……いくつかの要因が重なって起きていることも多いです。「なぜこんなことをするのか」と原因を突き止めようとしすぎて、自分を追い詰める必要はありません。

「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」では、異食をはじめとする食行動の変化について、薬よりもまず非薬物的な対応や環境調整を検討することが基本とされています。原因を探りながら、まず安全な環境を整えることが大切です。


特に危険なもの——知っておくべきリスト

異食の対象によって、リスクの種類や緊急度が異なります。

窒息・消化管損傷のリスク

ティッシュ・布・プラスチックの破片などは、窒息や消化管の詰まりを引き起こすことがあります。

量が多い場合や小さく丸めて飲み込んだ場合は、腸閉塞につながることもあります。食道や胃を傷つける可能性があるため、とがったものはとくに注意が必要です。

中毒のリスク

消費者庁が公表した報告(2015年9月時点の集計)では、65歳以上の方の誤飲・誤食事故の情報のうち、上位に挙がっていたのは医薬品の包装(PTPシート=薬の錠剤が入ったプラスチックの小さなシート)・部分入れ歯など・洗剤や漂白剤でした。

洗剤・漂白剤は粘膜を傷つける腐食性があります。観葉植物の中にも、口に入れると体調を崩すおそれがあるもの(ポトス、ディフェンバキアなど)があります。PTPシートは飲み込むと消化管に刺さるリスクがあります。たばこについては後ほど詳しく触れますが、ニコチンによる中毒の危険があります。

ボタン電池を飲み込んだ疑いがあれば、すぐ受診

数ある誤飲のなかでも、コイン型のリチウム電池(ボタン電池)は特に危険です。

電池が食道や消化管にとどまると、放電によって発生するアルカリ性の液体が粘膜を化学やけどのように傷つけ、最悪の場合は穿孔(穴が開くこと)に至ることがあります。症状が出るまでに時間がかかることもあり、「今は元気そうだから様子を見よう」と判断するのは危険です(国民生活センターも2024年7月に、ボタン電池誤飲の危険性について注意喚起を行っています)。

ここで大切なのは、家族が無理に取り出そうとしないことです。口の中に見えていて安全につまみ出せる場合をのぞき、飲み込んだ疑いがあるときは、何もせずにすぐ医療機関を受診してください。


やってしまいがちな「NG対応」——なぜ逆効果か

私自身も、介護の現場に入り始めた頃、異食の場面に遭遇したとき、つい「ダメですよ!」と大きな声を出してしまったことがあります。でも、それは逆効果だと後から学びました。

叱る・「ダメ!」と責める

大声を出したり、強い口調で叱ったりすると、本人は驚いて反射的に飲み込んでしまうことがあります。

また、叱られたことへの不安や混乱が高まり、同じ行動が繰り返されやすくなることもあります。さらに、叱ってしまった後の罪悪感が、介護者自身を傷つけます。誰でも焦ればそうなりますが、できるだけ穏やかに対応することを心がけたいところです。

無理に口から取り出そうとする

「危ない!」と思って口の中に手を入れようとすると、噛みつかれることがあります。また、見えない奥のほうを指で探ると、かえって喉の奥に押し込んでしまい、危険な状態になることもあります。

口の中に見えていて、安全につまみ出せるものだけを、落ち着いて取り除きましょう。奥に入ってしまったもの、見えないものを無理に取り出そうとせず、後述する方法で対応するのが基本です。


今日からできる対応と環境の工夫

危険なものを視界・手の届く場所から外す

有効な対策のひとつは、危険なものを手の届かない場所に移すことです。

「制限する」という発想ではなく、「安全な環境をつくる」という視点で整理してみてください。部屋の中を見渡して、口に入ると危険なものを一度書き出してみるだけでも、リスクの整理になります。

口さみしさへの代替を用意する

口を動かしたい、何か噛みたいという欲求があるときは、安全に口にできるものを近くに用意しておくことが助けになる場合があります。

たとえば、少量のおやつや、噛みごたえのある食材などです。ただし、飲み込む力(嚥下機能)が弱っている方では、おやつやガムそのものが窒息の原因になることもあります。 どんなものなら安全かは個人差が大きいので、歯科・主治医・言語聴覚士(ST)などに一度相談すると安心です。食事のリズムを整え、空腹の時間を長く作らないことも助けになることがあります。

食事そのものを食べてくれない場合は、食事を食べないときの記事もあわせて参考にしてください。

落ち着いた声かけで気をそらす

異食の場面を目にしたら、穏やかな声でそっと別のことに意識を向けてもらうことを試みましょう。

「○○さん、こっちに美味しいものがありますよ」「一緒にお茶にしましょうか」といった声かけで、自然に誘導できることがあります。急に手を出したり、強い言葉を使ったりしないことが大切です。

ケアを拒否されるときの声かけについては、ケアを拒否されるときも参考になるかもしれません。

観察記録をつける

「いつ・何を・どのくらい・どんな状況のときに・どう対応したか」を簡単にメモしておきましょう。

パターンが見えてくることがあります。「夕方に多い」「食後しばらくして起きやすい」「特定の場所に置いてあるものを繰り返し口に入れる」といった傾向がわかると、対策を立てやすくなります。この記録は、かかりつけ医やケアマネジャーに状況を伝えるときにも役立ちます。


現場メモ

以前、テーブルの上の小物を繰り返し口に入れてしまう方を担当したことがあります(個人が特定されないよう、内容は一部変えています)。その小物を引き出しにしまい、代わりにテーブルの上に、おいしそうな見た目のお菓子を1つ置いておくようにしたところ、口に入れる頻度がはっきりと減りました。環境を少し変えるだけで行動が変わることは、現場でも実際によくあります。


緊急時の対応——このサインが出たらすぐ動く

万一に備えて、ここだけは家族みんなで共有しておきたい内容です。

① まず「窒息」かどうかを見分ける

次のようなサインが出たら、窒息の可能性があります。

意識があり、咳ができる場合は、咳を促します。咳で出せないとき、または咳もできないときは、すぐに119番を呼び、到着までの間に背部叩打法(本人を前かがみにさせ、左右の肩甲骨の間を手のひらのつけ根で力強くたたく)と**腹部突き上げ法(ハイムリック法)**を交互に試みます。

② 中毒が疑われるとき

何かを飲み込んでしまい、意識やけいれん・呼吸に異常がない場合は、まず落ち着いて、飲み込んだものを確認しましょう。

ただし、次のものは中毒110番より先に、119番または救急外来へ進んでください。

それ以外で、何を飲んだか分かっていて本人が落ち着いているときは、まず下記に電話して指示を仰ぎます。


中毒110番(一般市民向けは情報提供料無料・365日24時間)


電話の前に、飲み込んだもの(商品名や種類)・量・飲み込んだ時刻・現在の様子をメモしておくと、スムーズに相談できます。

③ 自己判断で「水・牛乳・吐かせる」はしない

応急処置は、飲み込んだものによって正反対になることがあります。よかれと思った対応が、かえって危険になることもあるため、自己判断は避けてください。

これらの場合も、まずは中毒110番に電話して指示を仰ぐか、症状があれば119番・救急外来を優先してください。


介護者の心のケア——自分を責めないために

目を離したあなたが悪いのではない

この記事の冒頭でも書きましたが、もう一度だけ。

異食は認知症の症状であり、介護の失敗ではありません。

24時間ずっとそばで見続けることは、人間として現実的に不可能です。目を離した隙に起きたとしても、それはあなたが怠けていたからではありません。認知症がそれだけ複雑な影響を与えているということです。

自分を責める時間があるなら、その気力を「次にどう環境を整えるか」に向けてほしいと思います。介護に疲れを感じているときは、介護に疲れたと感じたらも読んでみてください。

一人で抱え込まず相談窓口を活用する

異食が頻繁に起きるようになったり、新しいものを口に入れるようになったりしたら、かかりつけ医やケアマネジャーに報告しましょう。状況によっては、住まいの環境の見直しや、専門職によるサポートを検討できます。

どこに相談すればいいか分からない場合は、地域包括支援センターが窓口になります。無料で相談でき、地域の支援機関につないでもらえます。お住まいの市区町村の窓口か、厚生労働省のウェブサイトで最寄りのセンターを探すことができます。

また、異食のきっかけや認知症の初期症状に心当たりがある方は、早めに医療機関に相談されることをおすすめします。


まとめ

最後に、この記事の核心を整理します。

一人で抱え込まず、地域包括支援センターやかかりつけ医に相談してください。あなたが安心して介護を続けられることが、本人にとっても大切なことです。

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