「エアコンをつけて」と伝えても、高齢の親が聞いてくれない。そんな悩みを抱えていませんか。高齢者の熱中症は発生場所別に見ると「住居」が最も多く、就寝中に発症して朝に気づかれるケースも少なくありません。エアコンを拒むのは、怠慢でも意地でもなく、体の変化や心理が関係しています。看護師・介護福祉士として在宅の現場で見てきた工夫と、夜間に家族が気づきたいサインをお伝えします。
なぜ高齢者は「暑くない」と言ってエアコンを拒むのか
「暑くないから大丈夫」と言う親を前に、もどかしさを感じたことがある方は多いと思います。実はこの言葉、本人の強がりではなく、体の感覚そのものが変化しているサインであることが少なくありません。
加齢で「暑さ」を感じにくくなる体の変化
環境省の熱中症環境保健マニュアルでは、高齢になると暑さや喉の渇きを感じにくくなり、体温調節や発汗の機能も低下すると説明されています。つまり「暑い」という自覚症状に頼った予防は、高齢者にはそもそも効きにくい仕組みになっているのです。
「暑くないと言う=我慢強い」と捉えがちですが、実際は感覚が鈍っているだけというケースが多く見られます。ご本人を責める材料にはならないと、まずお伝えしたいところです。
この感覚の鈍さは、統計にも表れています。総務省消防庁の発表によると、2025年5〜9月の熱中症による救急搬送者数は10万510人にのぼり、5〜9月を集計対象とするようになった2015年以降で初めて10万人を超え、過去最多となりました。このうち65歳以上の高齢者は5万7,433人で、全体の57.1%を占めています。
さらに発生場所別に見ると、「住居」が約38%と最も多く、道路(約20%)を上回っています。屋外よりも、住み慣れた自宅の中で熱中症が起きているという事実は、意外に感じる方も多いのではないでしょうか。室内での予防の全体像は高齢者の熱中症は屋外より室内で起きるで詳しく解説しています。
2026年も状況は変わっていません。総務省消防庁の速報値では、2026年7月6日〜12日の1週間だけで熱中症による救急搬送が4,580人にのぼり、前週の約3.3倍に急増しました。このうち65歳以上が61.7%を占め、発生場所は住居が37.8%で最多となっています(出典: 総務省消防庁「熱中症による救急搬送状況」速報値。速報値のため、後日修正される可能性があります)。
「電気代」「クーラーは体に悪い」という心理・価値観
現場で高齢の方やご家族からお話を伺っていると、エアコンを拒む理由は「暑さを感じない」だけではないことが分かります。私が在宅の現場で見聞きしてきた範囲では、主に次のようなパターンがあります。
- 「暑くない」と本人が感じていない(感覚の低下)
- 「電気代がもったいない」という節約意識
- 風が苦手、体が冷えるのが嫌い
- 「クーラーは体に悪い」という世代的な価値観
- 操作方法が分からない、または認知症により冷暖房の設定を取り違えてしまう
これらは一つとは限らず、いくつか重なっていることも珍しくありません。季節の変わり目からの体調・感覚の変化については梅雨時期の在宅高齢者に起こりやすい体調変化でも解説しています。
「つけなさい!」は逆効果──やってはいけないNG対応
無理強い・叱る対応が招く逆効果
「いい加減にして、つけてよ」と強く言いたくなる気持ちは、とてもよく分かります。ただ、頭ごなしに命令するような伝え方は、かえって意固地にさせてしまうことが少なくありません。
高齢になっても、自分の生活や体の感覚を自分で決めたいという気持ち(自己決定の意思)は変わりません。命令されると、その意思を脅かされたように感じ、意地でも従わないという反応が起きやすくなります。
叱ってしまったご家族を、私は責めるつもりはありません。むしろ、それだけ真剣に心配しているからこその言葉だと思います。ただ、伝え方を少し変えるだけで、受け止められ方が変わることがあります。次の章で、現場で納得につながりやすかった工夫をご紹介します。
「持っているから安心」という思い込みの危うさ
「うちはエアコンがあるから大丈夫」と考えているご家庭も多いと思います。しかし、エアコンが設置されていることと、それが正しく使われていることは、別の話です。
2025年6月に東京大学と東京都監察医務院が発表した共同研究では、2013年から2023年までに東京23区内の屋内で熱中症により亡くなった1,295例が分析されました。エアコンの状態別に見ると、電源が入っていなかった例が581例、設置されていなかった例が381例、故障していた例が129例、稼働していたにもかかわらず亡くなった例が84例と報告されています。
このうち、故障(129例)と、稼働していたのに適切に使えていなかった例(84例)を合わせた213例は、屋内で亡くなった方の16.4%にあたります。適切に使えていなかった具体例としては、リモコンの電池切れや、冷房のつもりが暖房・送風モードのままになっていたことなどが挙げられています。また、稼働していたのに亡くなった84例のうち約8割は、一人暮らしまたは高齢の方だけの世帯だったと報告されています。
この結果から見えてくるのは、「エアコンを持っているかどうか」だけでなく、「そのときに正しく使えているかどうか」の確認が大切だということです。設置の有無を確認して終わりにせず、実際に稼働しているか、正しいモードになっているかを、時々気にかけていただけたらと思います。
現場で取り入れやすかった4つの工夫
環境省が発表する熱中症警戒アラートでも、屋内にいる場合もエアコンなどを適切に使うことが呼びかけられています。とはいえ、伝え方一つで受け止め方が大きく変わるのも事実です。ここからは、在宅の現場で納得につながりやすかった工夫を4つご紹介します。すべてのご家庭に当てはまるとは限りませんが、伝え方のヒントとして参考にしてください。
温度計を「見える化」して数値でルールを決める
「暑いかどうか」を主観で聞くのではなく、温度計を置いて数字で確認する方法です。目安として室温28℃程度を一つの区切りにし、「これを超えたらエアコンをつける」と、あらかじめ本人と一緒に決めておきます。
ここでのポイントは、28℃を「設定温度」ではなく「室温を保つ目安」として使うことです。体調がすぐれない日や特に暑い日は、数字にこだわりすぎず柔軟に下げていただいて構いません。数字というルールがあるだけで、「言われたからつける」ではなく「自分で決めたことだからつける」という納得感が生まれやすくなります。
離れて暮らす家族はスマートリモコンで室温を直接確認する
離れて暮らすご家族の場合、電話で「暑くない?」と聞いても、本人の感覚に頼った答えしか返ってきません。感覚そのものが鈍っている可能性を踏まえると、この聞き方には限界があります。
そこで役立つのが、スマートフォンで室温やエアコンの稼働状況を確認できるスマートリモコンです。主観で確認する見守りから、数字で確認する見守りに切り替えることで、部屋が暑くなっていないか、エアコンが止まっていないかを、離れた場所からでも把握しやすくなります。導入するときは、本人に目的を伝えて同意を得ること、勝手に遠隔操作しないルールを家族で決めておくことが大切です。管理のためではなく、一緒に見守るための工夫として取り入れてみてください。
電気代の不安には「具体的な目安」で答える
「電気代がもったいないから」という理由で拒否される場合、漠然と「大丈夫だから」と説得しても、なかなか納得してもらえません。具体的な目安を示すことが助けになる場合があります。
例えば8畳用のエアコンを28℃設定で1か月つけっぱなしにした場合の電気代は、機種や住まいの断熱、外気温によって差がありますが、目安として月6,000〜8,000円程度という試算もあります。あくまで条件によって変動する目安として、具体的な数字を添えて話すと納得してもらいやすくなります。
「温度計が28℃を超えたらつける約束にしよう」「電気代が心配なら、夏の分は私が出すから」のように、具体的な言葉で提案するのも一つの方法です。熱中症で入院や搬送になれば、体への負担はもちろん、結果的に医療費や家族の負担も大きくなり得ます。電気代とどちらが良いかを単純に断定することはできませんが、判断材料の一つとして知っておいてください。
寝具・水分でも「暑さを感じにくい体」をサポートする
エアコンだけに頼らず、寝具や水分の工夫も体を支える助けになります。通気性のよい敷きパッドやシーツに変えることで、寝汗による蒸れを軽減しやすくなります。通気性への配慮は、床ずれ(褥瘡)を自宅で防ぐための工夫とも共通するポイントです。
また、暑さを感じにくいのと同じように、喉の渇きも感じにくくなっているため、意識的な水分補給が欠かせません。認知症のある方の場合は、水を勧めても飲んでくれないことがあります。認知症の親が水分を飲んでくれないときの対応が日々の関わり方のヒントになるかもしれません。なお、心臓や腎臓の持病がある方、塩分制限や利尿薬の内服がある方は、水分・塩分の摂り方をかかりつけ医に確認しておくと安心です。
夜のエアコンは「つけっぱなし」でいいのか
「夜はエアコンをつけっぱなしにしていいのか、それともタイマーで切るべきか」というご相談は、現場でもよく耳にします。結論から言うと、状況によっては「つけたまま眠ることも必要」とされる場面があります。
タイマーを使うなら「短すぎない」設定を
環境省の熱中症環境保健マニュアルでは、夜間はタイマーが切れたあとに室温が非常に高くなることがあるため、タイマーを使うのであれば最低でも3〜4時間は使用することが望ましいとされています。また、気温があまり下がらない夜は、冷房をつけたまま眠ることも必要とされています(出典: 環境省「熱中症環境保健マニュアル」)。「体に悪いのでは」と感じる方もいると思いますが、一晩中冷房が必要なほど気温が下がらない夜があるのも事実です。室温や本人の体調に応じて、つけたまま休む選択肢も検討してみてください。
「室温28℃」の意味を取り違えないように
前の章でも触れたとおり、環境省が示す「28℃」はエアコンの設定温度ではなく、室温の目安です。設定温度を28℃にしても室温がそこまで下がらないこともあり、その場合は設定を下げることも考えられます。同マニュアルのコラムでは、快眠のための室温の上限はおおむね28℃とされる一方、寝具の工夫だけでこの範囲を保つのは難しく、冷房による調整が必要になると説明されています。高温の影響は成人より高齢者の方が大きく現れるとされる一方、室温24℃を下回るような冷やしすぎも体の負担になり得るため、下げすぎにも注意してください。
夜間熱中症の危険サインと受診の目安
改めて数字で見ると、屋内での熱中症は決して他人事ではありません。東京都監察医務院がまとめた2025年夏の確定値では、東京23区内の熱中症による死亡者193人のうち、屋内で亡くなった方が93.8%を占めました。さらに、屋内で亡くなった方のうち66.8%はエアコンを使用していなかったと報告されています(出典: 東京都監察医務院「令和7年夏の熱中症死亡者数の状況」)。
就寝中に起きやすい理由
前の章でご紹介したとおり、エアコンをタイマー設定で使っている場合、切れたあとに少しずつ室温が上がり、気づかないうちに体調が悪化してしまうことがあります。暑い夜は、可能であれば朝まで連続運転にするか、タイマーを使う場合も長め(3〜4時間以上)に設定しておくと安心です。
就寝中に体調が悪化し、朝になって家族が異変に気づく——このパターンは在宅の現場でも実際に耳にする話です。夜間のエアコンの使い方は、日中以上に見過ごされやすいポイントかもしれません。
家族がその場で確認できる危険サイン
熱中症の重症度は、大きく3段階に分けられます(日本救急医学会の分類をやさしく言い換えています)。めまいや立ちくらみ、こむら返り、大量の汗といった症状は比較的軽度で、涼しい場所への移動と水分・塩分補給が基本になります。頭痛や吐き気、倦怠感がある場合は医療機関の受診を検討する目安です。そして、自力で水分が摂れないときは、様子を見ずに受診してください。
特に注意していただきたいのは、次のようなサインです。
- 呼びかけへの反応が鈍い、または返事がおかしい
- 会話がかみ合わない
- 体に触れると熱いのに、汗をかいていない
- けいれんが見られる
- 意識がもうろうとしている
これらは重症の可能性を示すサインです。見られた場合は、ためらわず119番へ連絡してください。救急車を待つ間は、涼しい場所へ移して衣服をゆるめ、首や脇の下、足の付け根を保冷剤や濡れタオルで冷やします。意識がはっきりしない方に、無理に水を飲ませるのは避けてください。
いずれの場合も、ご家族だけで「大丈夫か、そうでないか」を判断するのは簡単ではありません。少しでも迷ったときは、自己判断せず、かかりつけの医療機関や救急相談窓口(#7119など)に相談していただくことをおすすめします。
迷ったときの見分け方は専門記事へ
「これは熱中症なのか、それとも別の体調不良なのか」という見分け方については、高齢者の脱水・かくれ熱中症の見分け方で詳しく解説しています。
頑張りすぎている家族へ──介護者自身の心のケア
「防げなかった」と自分を責めなくていい
在宅で介護をされているご家族とお話ししていると、「もっと早く気づいていれば」「なぜエアコンをつけさせられなかったのか」と、ご自身を責めてしまう方に少なからず出会います。
真面目に向き合っているご家族ほど、こうした自責の気持ちを強く抱く傾向があると、現場では感じています。ですが、高齢者の熱中症は感覚の変化や心理、住環境など、いくつもの要因が重なって起こるものです。ご家族おひとりの努力だけでコントロールしきれるものではありません。
一人で抱え込まず頼れる先を持つ
エアコンの使い方や体調の変化について、家族だけで抱え込む必要はありません。訪問看護やケアマネジャー、地域包括支援センターなど、相談できる窓口は複数あります。
日々の様子を共有しておくだけでも、いざというときに気づいてもらいやすくなります。頼れる先を一つでも持っておくことが、ご家族自身の負担を軽くすることにもつながります。
まとめ
高齢者がエアコンを拒むのは、怠慢ではなく、暑さを感じにくくなる体の変化や、電気代・クーラー観といった心理が背景にあります。頭ごなしに叱るのではなく、温度計での見える化やスマートリモコン、具体的な電気代の目安を使いながら、本人の意思を尊重しつつ働きかける方法をご紹介しました。エアコンは「持っているか」より「正しく使えているか」が重要です。夜間の危険サインに気づいたら、自己判断せず医療機関や救急に相談してください。
次のステップ(CTA)
今夜、リビングや寝室に温度計を一つ置いてみませんか。「暑い?」と本人に聞く代わりに、数字で室温を確認する習慣が、小さな一歩になります。
参考文献
- 総務省消防庁「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」(2025年10月29日発表)https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf
- 総務省消防庁「熱中症による救急搬送状況」(速報値)https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html
- 総務省消防庁「令和6年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」(確定値)https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r6/heatstroke_nenpou_r6.pdf
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル」https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php
- 環境省「熱中症警戒アラートの運用について」報道発表 https://www.env.go.jp/press/press_04076.html
- 東京都保健医療局「熱中症による死亡者に関する東京大学との共同研究結果について」(2025年6月20日発表)https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/06/2025062014
- 東京大学「屋内での熱中症死亡とエアコン使用状況に関する研究成果」(2025年6月20日発表)https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/PR/2025/release_20250620.pdf
- 東京都監察医務院「令和7年夏の熱中症死亡者数の状況」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/kansatsu/heatstroke/r07-heatstroke