「のどが渇いてないって言ってるから大丈夫」——そう思って眠ったら、翌朝親がぐったりしていた。現場で働いていると、こんな話を何度も耳にしてきました。
高齢の方は、体内の水分が足りなくなっても「のどの渇き」を感じにくくなります。自覚がないまま脱水が進み、気づいたときには熱中症になっていることがあるのです。
総務省消防庁の2025年のデータによると、2025年5〜9月の熱中症による救急搬送は100,510人(統計開始の2008年以来最多)。そのうち65歳以上が57,433人(57.1%)を占めています。屋外と思いがちですが、発生場所で最も多いのは「住居」で約38%。10人のうち約4人が、慣れ親しんだ自宅で搬送されているのです。
この記事では、家族が知っておきたい脱水の初期サイン・予防の工夫・受診の目安を、現場目線でお伝えします。
[データ] 2025年 熱中症救急搬送(総務省消防庁 令和7年10月29日公表)
- 搬送者総数:100,510人(統計開始以来最多)
- うち65歳以上:57,433人(57.1%)
- 発生場所「住居」:38,292人(約38%)
- 死亡:117人
心不全・腎疾患など水分・塩分の制限がある方は、本記事の内容をそのまま実践せず必ず主治医に確認してください。
高齢者が脱水・熱中症になりやすい5つの理由
のどが渇いてもわからなくなる、加齢のしくみ
「さっき飲んだからいい」「別にのどは渇いていない」——親がそう言っても、油断は禁物です。
加齢とともに、口渇感(のどの渇きを感じる機能)の感受性は低下します。水分が不足していても、脳がそのシグナルをうまくキャッチできなくなるのです。「渇いていない」は「水分が足りている」を意味しません。
また、高齢者の体内水分量は体重の約50%といわれています(成人は約60%、厚生労働省2022年)。この差は小さいようで大きく、言わば「貯水タンクが最初から小さい」状態で毎日を過ごしているイメージです。筋肉量の減少がその主な原因です。
腎機能・発汗・服薬が重なるリスク
脱水のリスクを押し上げる要因は、口渇感だけではありません。
加齢に伴う腎機能の低下で、尿を濃縮して水分を保持する力が弱まります。つまり、尿として体外に出ていく水分量が増えやすくなります。さらに、体温調節や発汗のしくみも若い頃と比べて働きが鈍くなるため、暑さへの対応が遅れがちです。
日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2024」でも、利尿薬・降圧薬・抗コリン薬などが熱中症のリスク因子として明示されています。複数の薬を服用している高齢者は特に注意が必要です。
暑い時期の在宅高齢者の体調変化については、梅雨の時期の在宅高齢者の体調変化もあわせてご覧ください。
【注意】持病のある方へ
心不全・腎疾患・糖尿病など、水分や塩分の制限を指示されている方は、この記事に書かれている予防法をそのまま実践するのではなく、必ず主治医の指示に従ってください。以降のアドバイスは制限のない方を前提としています。
家族が気づける脱水の初期サイン
見た目と触ってわかるチェックリスト
熱中症の怖いところは、本人が「大丈夫」と言い続けることです。だからこそ、家族が外から気づける変化を知っておくことが大切です。
以下のサインが出ていたら、脱水が始まっている可能性があります。
- 口の中が乾いている(唾液が少ない・舌がべたつく)
- 皮膚の張りが落ちる(前腕の内側〈ひじの内側あたり〉の皮をつまんで離したとき、3秒以上かかって戻るようなら要注意。ただし高齢者は加齢で皮膚の戻りが遅くなるため、この方法だけで判断せず他のサインと合わせて目安として見てください)
- 微熱・倦怠感・食欲低下がある
- いつもより口数が少ない、ぼーっとしている
「熱がないから大丈夫」と思いがちですが、脱水の初期には高熱は出ません。むしろ元気がない・食欲がないといったわかりにくいサインのほうが先に現れます。
尿の色と量を毎日の習慣に
見落としがちですが、尿の変化は脱水の信頼できるシグナルです。
通常より尿の色が濃い(濃い黄色〜茶色がかっている)、または量がいつもより少ないと感じたら、水分が足りていないサインかもしれません。
トイレのたびに一声かける習慣をつけると、変化に気づきやすくなります。また、認知症のある方は「さっき飲んだ」とおっしゃっても、実際には飲めていないことがあります。声かけと一緒に、コップを手渡す形が現場ではよく使われています。
フレイル(虚弱)と脱水の関係については、家族向けフレイル入門でも詳しく説明しています。
やりがちなNG対応・4つの誤解
「水をたくさん飲めば安心」「経口補水液を毎日飲む」は逆効果になることも
熱中症対策として「とにかく水を飲ませよう」と考える方は多いのですが、一点だけ注意したいことがあります。
こまめに少量ずつ水を飲む分には問題ありません。ただし、屋外活動後や入浴後など激しく汗をかいた後に、水だけを一度に大量に飲むと、血液中のナトリウム濃度が下がる低ナトリウム血症のリスクがあります。塩分補給が必要になるのは、このような多量に発汗した場面です。普段の生活の中で「少しずつ、こまめに水を飲む」こと自体は、ぜひ続けてください。
経口補水液(ORS)は脱水が始まった段階の補給手段です。ナトリウム濃度が高めに設計されているため、日常の予防目的で毎日多量に飲み続けると、塩分の過剰摂取につながることがあります。スポーツドリンクとも成分が異なります。使い方に迷う場合は主治医に相談するのが安心です。
「室温28℃設定でOK」「エアコンは身体に悪い」という思い込み
「28℃に設定してあるから安心」という声もよく聞きます。ただ、これは少し誤解があります。
「室温28℃」は目標とする室温の目安であって、エアコンの設定温度ではありません。エアコンを28℃に設定しても、部屋の広さや日当たりによっては室内の温度が30℃を超えることもあります。室温計を実際に置いて、数字で確認することをおすすめします。
環境省は、暑さ指数(WBGT)28以上で熱中症患者が著しく増加するとしています。また2024年からは、WBGT33以上を対象とした「熱中症特別警戒アラート」が新たに導入されました。
「エアコンは身体に冷えて良くない」とおっしゃる高齢の方も多いです。訪問先でも「扇風機だけでいい」という方に出会うことがあります。そんなときは「寒いと感じたら止めていいので、一度つけておきましょう」と声をかけながら、室温を一緒に確認するようにしていました。
在宅でできる予防の工夫
水分補給のタイミングと目安量
厚生労働省の2022年のリーフレットでは、飲料から摂る水分の目安は1日約1.2Lとされています。気温が高い日や体を動かした日にはさらに多くの水分が必要になることもあります。のどが渇いてから飲もうとすると、前述のとおり高齢者は気づけないことが多くなります。
おすすめは「時間を決めて飲む」方法です。
- 朝起きたとき
- 食事の前(朝・昼・夕)
- 入浴の前と後
- 就寝前
この6〜7回に分けると、自然に1.2Lに近づきます。「一度に多く飲むのが苦手」という方には、小さなコップで回数を増やす方法が使いやすいです。キッチンタイマーやスマートスピーカーで時間を知らせる工夫をされているご家族もいます。
水分は飲料だけでなく、汁物・フルーツ・ゼリーなど食事からも摂れます。食欲が落ちやすい夏こそ、水分の多い食材を意識してみてください。
室温・湿度の管理と夜間の注意
室内でできる環境整備として、以下の対策が役立ちます。
- 室温計・湿度計を置き、数字で確認する(見た目や感覚だけでは気づきにくい)
- 寝るときもエアコンをタイマーで運転する(深夜〜早朝の「熱帯夜」は特に危険)
- 日中はカーテンで直射日光を遮断する
- 朝イチで親の様子を電話や訪問で確認する
夜間は家族が気づけない時間帯です。「夜だから涼しい」と思いがちですが、夜間から朝にかけて室温が下がりにくい日が続くと、体に熱がこもりやすくなります。夜間の管理も軽視できません。
【注意】持病のある方への念押し
心不全・腎疾患など水分や塩分の制限を指示されている方は、水分を独自に増やすことでかえって状態が悪化することがあります。暑い時期の水分管理については、主治医または訪問看護師に相談のうえで判断してください。
こんなときは受診・救急車を呼ぶ
「様子見」と「すぐ救急」の判断ライン
日本救急医学会の「熱中症診療ガイドライン2024」では、熱中症はI〜IV度に分類されています。最重症のIV度は、生命の危険がある状態です。
家族にとって大切なのは、「すぐに救急車を呼ぶ場面」を事前に知っておくことです。
以下のいずれかに当てはまる場合は、ためらわずに救急車を呼んでください(119番)。
- 呼びかけに反応しない・意識がはっきりしない
- 自分で水が飲めない
- けいれん(体がガタガタと震える)が起きている
- 顔色が悪く、ぐったりしている
一方、意識がはっきりしていて自分で水が飲める場合は、まず以下の手順で対応してください。日本救急医学会のガイドラインでも、冷却は最優先の初期対応とされています。
- エアコンの効いた涼しい室内に移す(廊下や車内でも、とにかくまず涼しい場所へ)
- 体を冷やす(保冷剤や氷をタオルに包み、首の横・脇の下・太ももの付け根に当てる。濡れタオルを当てて扇風機で風を送るのも有効)
- 飲める状態ならスポーツドリンクや経口補水液で水分補給する(無理に飲ませるのは禁物)
- 30〜60分たっても改善しない、または少しでも症状が悪化したらすぐ医療機関へ
高齢者は状態が急変することがあります。「様子を見よう」と思っても、少しでも悪化のきざしがあれば早めに相談することを優先してください。
夜間・休日の判断で迷ったら
すぐに救急車を呼ぶほどではないけれど、様子がおかしいと感じるとき。そんな場面で頼れる窓口を知っておくと安心です。
- #7119(救急安心センター):電話で看護師・医師が24時間対応(地域によって実施状況が異なります)。30〜60分たっても改善がみられない、または少しでも症状が悪化した場合は、ためらわずに相談してください
- かかりつけの訪問看護ステーション・訪問介護事業所:担当者に連絡して判断を仰ぐのも一つの方法です
受診や救急車を呼ぶ判断の目安については、救急車を呼ぶ目安でも詳しくまとめています。
介護する家族の心のケア
「全部見守らなければ」と思わなくていい
在宅で親の介護をしながら、熱中症まで気を張り続けるのは本当に大変なことです。「自分が見ていれば防げたのに」と後悔される家族を、現場で何人も見てきました。
完璧に24時間見守ることは、誰にもできません。でも「仕組みをつくること」ならできます。
室温計を置く、タイマーで声かけをする、訪問スタッフと情報を共有する——小さな工夫の積み重ねで、リスクを下げることはできます。家族一人で抱え込まず、ケアマネジャーや訪問スタッフと分担することが、長く続けるための大前提です。
在宅看取りを選ぶ家族へのひと言
終末期になると、水分や食事の管理の判断が難しくなることがあります。脱水への対応も、本人の状態や意向によって変わってきます。
このような局面では、主治医や訪問看護師と丁寧に相談しながら、その方らしい過ごし方を一緒に考えることが大切です。「もっと飲ませなければ」と自分を責める必要はありません。
在宅での看取りについては、在宅看取りでも考え方を紹介しています。
まとめ
高齢者の熱中症は、発生場所で最も多いのが自宅の室内です。口渇感が鈍くなるという生理的な変化があるため、「のどが渇いていない」という言葉を鵜呑みにしないことが大切です。時間を決めた水分補給、室温計による実測、そして脱水のサインを知っておくこと——この3つが家族にできる最大の備えです。
完璧な見守りを目指す必要はありません。今日一つ、できることから始めてみてください。
次のステップ
今日、親の部屋に温度計(室温計)を置いてみてください。
それだけで、家族のあなたが気づける情報がひとつ増えます。数字が見えれば、次の行動につながります。
宮田浩行(みやた・ひろゆき)
看護師・介護福祉士・医療福祉ライター。病院・在宅・介護施設での現場経験をもとに、医療介護分野の情報を一般の方に届ける執筆活動を続けています。