在宅で家族の介護をしていると、「床ずれ(じょくそう)ができてしまったらどうしよう」「もうできてしまった、どう対処すればいい」という不安を抱えている方は多いと思います。
床ずれは、適切なケアで多くの場合は防ぐことができます。一方で、できてしまっても、それは介護をしている方の「失敗」ではありません。
訪問先でご家族からこうした相談を受けるたびに、もっと早く正しい情報を届けられたらと感じてきました。この記事では、床ずれが起きる仕組みから、今日からご家庭でできる予防と対処、「これは受診が必要」というサインまでを整理してお伝えします。
床ずれ(褥瘡)とは?なぜ寝たきりだとできやすいのか
皮膚の下で起きていること——5つの原因
床ずれ(褥瘡=じょくそう)とは、皮膚や皮膚の下の組織が傷んでしまった状態です。「ずれ」や「圧迫」によって血流が途絶え、組織が壊死(えし=細胞が死んでしまうこと)します。
原因は主に5つあります。
- 圧迫:同じ姿勢を続けることで、骨と寝具の間に皮膚が挟まれる。一般的に2時間以上同じ部位への圧迫が続くと組織にダメージが始まるとされています
- ずれ力:ベッドの頭側を起こすときなど、皮膚の表面と深い組織の動く方向がずれる力
- 摩擦:体を動かすときに皮膚がシーツと擦れる
- 湿潤(しつじゅん):おしっこや汗で皮膚が長時間ぬれている状態。失禁によって起きる皮膚炎(IAD=失禁関連皮膚炎)と重なると悪化しやすくなります
- 低栄養:たんぱく質やカロリーが不足すると皮膚の修復力が落ちる
これらが複合的に重なったとき、床ずれはできます。どれか1つを改善するだけでもリスクを下げることができます。
できやすい部位——体の向きで変わる注意スポット
骨が皮膚のすぐ下に突き出している場所(骨突出部)が特に注意が必要です。体の向きによって変わるので、覚えておいてください。
- 仰向け(あおむけ)のとき:仙骨部(せんこつぶ=お尻の割れ目の上あたり)・踵(かかと)・後頭部・肩甲骨・肘
- 横向きのとき:大転子部(だいてんしぶ=太ももの付け根の外側のでっぱり)・腓骨頭(ひこつとう=膝の外側)・耳・肩峰(けんぽう=肩の先端)
- 座っているとき:坐骨部(ざこつぶ=座ったときにあたる骨)・尾骨部(びこつぶ=お尻の一番下の骨)
最も多いのは仙骨部です。仰向けが多い方は特に意識してみてください。
やってはいけない3つのNG対応
「よかれ」と思ってやっていることが、実は逆効果になっているケースは少なくありません。私が訪問先でよく見かけるNGを3つまとめます。
円座(ドーナツクッション)は使わないで
「穴あきのクッションを使えば圧迫が減る」と思われがちですが、これは逆効果です。円座のふちが骨の突き出た部分の周囲を圧迫し、血流をかえって遮断してしまいます。また、クッションの中央に浮いた部分に「ずれ力」が集中します。
日本褥瘡学会の2022年のガイドラインでは、円座の使用は禁忌(してはいけない)と明示されています。
手元にある方は、今すぐ使用をやめてください。代わりに体圧分散マットレス(後述)を使います。
赤くなった部分をマッサージしない
「血流をよくしようとマッサージする」という対応も、残念ながら禁忌です。すでに傷んでいる組織に摩擦やずれの力が加わり、悪化させてしまいます。
赤みが出たら、まず圧迫を取り除くことを優先してください。マッサージはしないでください。
消毒液の使いすぎは傷の回復を妨げる
床ずれができたとき、消毒液をたっぷりつけて清潔にしようとする方がいます。しかし、一般的な消毒薬は傷んだ組織だけでなく、回復に必要な正常な細胞も傷つけてしまいます。
日本皮膚科学会の2023年のガイドラインでも、感染の兆候がなければ水道水や生理食塩水(せいりしょくえんすい)で洗い流すことが推奨されています。
市販の外用薬(塗り薬)を自己判断で使うことも、状態を見えにくくする場合があります。傷が気になる場合は、まず訪問看護師やかかりつけ医に相談してください。
今日から家でできる予防の4本柱
日本褥瘡学会の予防・管理ガイドライン(第5版、2022年)では、「体位変換」「体圧分散」「スキンケア」「栄養」の4本柱が予防の標準として示されています。それぞれを家庭でどう実践するか見てみましょう。
体位変換——「2時間ごと」より「こまめに動かす」
「2時間ごとに体の向きを変えなければいけない」という情報を聞いたことがある方も多いと思います。これは正しいのですが、「絶対に2時間ごとでなければならない」という意味ではありません。
**2時間は「この時間を超えないようにしましょう」という目安です。**ただし、適切な体圧分散マットレス(後述)を使っている場合は、間隔を延長できることもガイドラインに示されています。どのくらいの間隔が適切かは、皮膚の状態・栄養・使っている寝具によって一人ひとり異なります。「うちの場合は何時間おきがいいか」は、訪問看護師や主治医に相談して決めるのが安心です。
体位変換のポイントは次のとおりです。
- 横向きの角度は30度が目安。90度(真横)に倒すと大転子部に強い圧がかかるので、よりリスクが高くなります
- 踵は必ず浮かせる。クッションを膝の下に入れて踵が床面(マットレス面)から浮くようにします
訪問先で出会うご家族のなかには、2時間タイマーを鳴らし続けて夜中も起き上がり、数か月後に体力の限界を迎えてしまった方がいました。介護者の体が壊れてしまっては、ケアを続けることができません。「目安の時間内に、無理のない範囲でこまめに」という考え方で取り組んでください。
体圧分散マットレスとポジショニング
体圧分散マットレス(たいあつぶんさんまっとれす)とは、体にかかる圧力を分散させて骨突出部への集中を防ぐ寝具です。交互圧切替型エアマットレス(空気が交互に膨らんで体への圧迫部位が変わるタイプ)は、ガイドラインでも推奨度の高いものとして示されています。
車いすを使っている方には、座圧分散クッション(ざあつぶんさんクッション)も有効です。
**介護保険で福祉用具貸与(レンタル)として利用できます。**月額費用の平均は約6,379円(健康長寿ネット 2017年のデータ)で、自己負担は所得に応じて1〜3割となります。原則として要介護2以上の方が対象ですが、要支援や要介護1でも、寝返りが難しい状態であれば例外的に利用できる場合があります。
詳しくは 介護保険と訪問看護の基本を知る や 退院後に家族が準備すること も参考にしてください。
なお、ベッドの頭側を起こすときは30度以下を目安にしてください。それ以上起こすと仙骨部や踵へのずれ力が大きくなります。食事のときなど30度以上が必要な場面は、できるだけ短時間にとどめましょう。
スキンケアと栄養——皮膚を外と内から守る
皮膚を守るには、外からのケアと内からの栄養の両方が必要です。
外からのケアでは、失禁(おしっこやうんちのもれ)があった場合はすぐに洗い流し、撥水性の保護クリームで皮膚を覆うことがIAD(失禁関連皮膚炎)の予防になります。また、骨突出部を予防的に保護する「予防用ドレッシング材(ドレッシングざい)」という保護材もあります。使い方は訪問看護師に相談するとよいでしょう。
内からの栄養では、たんぱく質をしっかりとることが大切です。お肉・魚・卵・豆腐・乳製品などを、食べられる範囲で毎食に取り入れるのが基本です。
なお、専門的なガイドラインでは「体重1kgあたり1.25〜1.5gのたんぱく質」といった具体的な目標量も示されていますが、これは腎臓・心臓の病気がある方、糖尿病の方、終末期の方などにはそのまま当てはまりません。持病がある方の栄養量は、必ず主治医や管理栄養士の評価のもとで決めてください。食欲が落ちているときに無理に食べさせると逆効果になる場合もあります。心配なときはケアマネジャーや訪問看護師を通じて管理栄養士につないでもらいましょう。
フレイル(加齢による筋力・体力の低下)との関連については フレイルと家族のケア もあわせてご覧ください。
受診・訪問看護に相談すべき5つの危険サイン
「これは大丈夫かな」と思ったとき、ご家庭でできる確認方法と、すぐに連絡すべき目安をお伝えします。
自分でチェックできるブランチングテスト
皮膚が赤くなっていたら、まず指でその部分を3秒ほど軽く押してみてください。
- 指を離したあと白くなって元の色に戻る→血流はある程度保たれている状態
- 押しても白くならない(色が変わらない)→組織が傷んでいる可能性がある
これを「ブランチングテスト(ブランチング反応の確認)」といいます。白くなれば圧迫を取り除いて様子を見ることができますが、白くならない場合は早めに医療者に相談してください。
これが出たら今日中に連絡——5つの危険サイン
次の5つのうち、1つでも当てはまる場合は、その日のうちにかかりつけ医や訪問看護師に連絡してください。
- 指で押しても消えない発赤(ブランチングテストで白くならない)
- 紫〜黒みがかった変色:見た目は小さくても、皮膚の内側が壊死している「深部損傷褥瘡(DTI)」の疑いがあります。見た目の軽さに惑わされないことが大切です
- 水疱(すいほう):水ぶくれができている
- びらん・潰瘍(かいよう):皮膚が剥けている、または穴が開きかけている
- 熱感・腫脹・膿・悪臭:感染の兆候です
「救急を呼ぶべきかどうか」の判断に迷う場面については 救急車を呼ぶかどうかの判断ポイント も参考にしてください。
連絡先は「緊急度」で使い分けてください。
- 膿が出ている・悪臭がする・熱をもっている・紫〜黒っぽく変色している・本人に発熱がある——こうした感染や重症化のサインがあるときは、ケアマネジャーを通さず、訪問看護師や主治医に直接連絡してください。夜間や連絡がつかないときは、救急相談(#7119など)も活用しましょう。医療の判断を遅らせないことが大切です。
- 「赤みがなかなか消えない」「マットレスを借りたい」「ケアの方法を教えてほしい」といった、急がない相談はケアマネジャーへの一本電話から始めれば大丈夫です。ケアマネジャーがかかりつけ医・訪問看護師・福祉用具専門相談員につないでくれます。
訪問看護の役割——家族だけで抱え込まなくていい
訪問看護師にできること
訪問看護師は、自宅に来て床ずれの状態を評価し、必要に応じて処置を行います。また、「どの向きでどう支えれば圧迫を減らせるか」「スキンケアはどうすればいいか」を実際に見せながら教えることもできます。
訪問看護は原則として介護保険での利用になりますが、床ずれが重症化した場合など、医師が「特別訪問看護指示書(とくべつほうもんかんごしじしょ)」を出すことで医療保険に切り替わり、週4日以上の訪問が可能になります。
ケアマネに伝えてほしいこと
「どう伝えればいいかわからない」という方のために、そのまま使える言葉を挙げておきます。
- 「お尻あたりの赤みがなかなか消えない」
- 「体位変換の正しいやり方を教えてほしい」
- 「マットレスをレンタルしたい」
この3つを伝えるだけで、ケアマネジャーは動いてくれます。専門的な言葉は知らなくて大丈夫です。
「褥瘡ができた=介護失敗」ではない——介護者の心のケア
不可避褥瘡という考え方
最後に、これをぜひ知っておいてほしいことがあります。
2025年2月、日本褥瘡学会は「不可避褥瘡(UPI=Unavoidable Pressure Injury)」という概念を正式に整理しました。これは、適切なケアを続けていても、終末期や重篤な状態では床ずれが発生してしまう場合があるという考え方です。
もちろん、適切なケアが前提です。でも、「全力でやっていても、それでも防げなかった」ということが実際に起こりえます。
床ずれができてしまったことで自分を責めているご家族に、私は何度もこの言葉を伝えてきました。「あなたがサボっていたからではありません」。
介護者自身の体と気持ちを守る
ある訪問先のご家族は、毎晩2時間おきに目を覚まして体位変換を続け、数か月後には日中も起き上がれなくなってしまいました。
介護者が倒れてしまえば、介護は続けられません。これは精神論ではなく、現実の問題です。
体圧分散マットレスを活用すれば体位変換の頻度を減らすことができます。訪問看護師に定期的に来てもらえば、処置と判断を任せることができます。一人で全部抱え込まないことが、長く介護を続けるための条件です。
在宅で最期まで看取ることを考えているご家族には 在宅看取りで大切な5つのこと も読んでいただけると、心の準備の助けになるかもしれません。
まとめ——今日から始める3つのこと
難しく考えなくて大丈夫です。まずこの3つから始めてみてください。
- 体位変換:2時間を超えないことを目安に、こまめに体の向きを変える。横向きは30度、踵は浮かせる
- マットレス:体圧分散マットレスのレンタルをケアマネジャーに相談する(介護保険で利用できます)
- スキンケア:失禁があればすぐに洗い流す。赤みが続く・消えない場合は迷わず訪問看護師かかかりつけ医へ
何から手をつければいいか迷ったら、まずケアマネジャーへ一本電話してみてください。「床ずれが心配なので、一度看護師に見てもらいたい」——それだけ伝えれば大丈夫です。
お近くの相談窓口がわからない場合は、市区町村の地域包括支援センター(じいきほうかつしえんせんたー)が窓口になります。介護保険のことも含めて、無料で相談できます。
執筆者プロフィール
宮田浩行(みやた ひろゆき)/看護師・介護福祉士・医療ライター。医療・介護の現場経験をもとに、家族が「正しく・安心して」ケアできる情報を発信しています。Kindle著書51冊。