宮田浩行 宮田浩行 ブログ
未分類

「梅雨は涼しいから大丈夫」は危険——在宅高齢者の体調変化と家族ができる6つの対策

公開: 2026年6月26日

「梅雨は涼しいから大丈夫」は危険——在宅高齢者の体調変化と家族ができる6つの対策
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

梅雨に入り、なんとなく親の様子がいつもと違う気がする——その直感を、どうか大切にしてください。

「涼しいから熱中症は関係ない」「食欲が落ちるのは仕方ない」。そう思って様子を見ていたら、実は深刻な状態だった、というケースを現場で何度も見てきました。看護師・介護福祉士として15年、在宅の現場に関わってきた私が、梅雨の時期に起きやすい体調変化と、家族にできる具体的な対策を6つにまとめました。


梅雨が高齢者にとって危険な理由——「涼しいから大丈夫」はなぜ誤解なのか

梅雨は「涼しい」ではなく「汗が蒸発しない」季節

「今日はそんなに暑くないし、大丈夫でしょ」と思っていませんか。

気温が25〜26℃でも、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなります。私たちの体は、汗が蒸発するときの気化熱で体温を下げています。ところが梅雨の高湿度の中では、汗はかいても蒸発が追いつかず、体内に熱がこもったままになってしまうのです。

環境省は、気温・湿度・輻射熱を組み合わせた暑さ指数(WBGT)が28を超えると熱中症リスクが急増するとしています。梅雨どきの蒸し暑い日は、気温が28℃に届かなくてもこの水準を超えることがあります。お住まいの地域で環境省・気象庁の「熱中症警戒アラート」が出たら、室内にいても注意が必要だと考えてください。

「窓を開ければいい」とも言えません。梅雨の外気はそれ自体が高温多湿ですから、換気しても室温はなかなか下がりません。

高齢者の体が梅雨に弱い3つの理由

では、なぜ高齢者は特に注意が必要なのでしょうか。

① 体の中の水分量がもともと少ない
成人の体内水分量は体重の約60%ですが、高齢者では約50%まで低下しています(健康長寿ネット/長寿科学振興財団)。もともと少ない水分量でスタートしているため、少しの水分喪失でも体への影響が出やすくなります。

② 喉が渇いたと感じにくい
年齢を重ねると、脱水になりかけていても口渇感が鈍くなります。「喉が渇いていないから飲まなくていい」という判断が、気づかないうちに脱水を進めてしまうのです。

③ 体温を調節する力が落ちている
発汗や皮膚からの放熱など、体温を一定に保つ仕組み全体が年齢とともに低下します。外の気温変化に体がついていきにくくなるため、室内にいるだけで体温が上がりやすくなります。


梅雨に在宅の高齢者で起きやすい体調変化6つ

かくれ脱水——「喉が渇かないから飲まない」が招く危険

先ほど触れたように、高齢者は喉が渇いたと感じにくいため、気づかないまま脱水が進みます。さらに利尿薬(むくみや高血圧の治療薬)を服用している方は、薬の作用で水分が失われやすく、脱水のリスクがより高くなります。

やりがちなNG行動として、「夜にトイレが増えるから夕方以降は水を控える」というものがあります。就寝前に水分を減らすと翌朝の脱水につながりやすいため、できれば夕食時にも水分をとる習慣を続けてほしいと思います。

家族にできる工夫としては、次の2つが特に有効です。

注意: 1日に飲む水分の量は、心臓や腎臓の状態によって異なります。持病のある方は、かかりつけ医や訪問看護師に「どのくらい飲めばよいか」を必ず確認してください。


室内熱中症——エアコンを使わない高齢者を動かすには

2024年5〜9月、熱中症で救急搬送された方は全国で97,578人にのぼりました(総務省消防庁、2024年公表)。そのうち65歳以上が57.4%を占め、発生場所の第1位は「住居」で38%です。

つまり、熱中症は外出先より自宅のほうが多いのです。

現場でよく聞く声として、「電気代がもったいない」「冷房が体に悪い」「寒いから嫌だ」というものがあります。本人が拒否するからとエアコンをつけないでいると、室温が知らず知らずのうちに上がり、熱中症に至ることがあります。

「扇風機だけつけておいた」というのも、気温が高いときには注意が必要です。 室温が体温に近いほど高くなると、扇風機の風では体の熱が下がりにくく、かえって熱い空気を当て続けることになります(WHOも35℃前後の高温下では扇風機だけに頼らないよう注意を促しています)。蒸し暑い日にエアコンを使わず扇風機だけで乗り切ろうとするのは避けてください。

交渉のコツとして、「設定温度を28〜29℃にすればそこまで寒くないよ」と伝えると受け入れてもらいやすいことがあります。環境省は室温の目安を28℃以下としているので、「室温が28℃に近づいたらエアコンをつける」という基準を一緒に決めておくのもよい方法です。

遠方に住んでいて直接声をかけられない場合は、スマート家電や温湿度計の活用も選択肢のひとつです。


気象病——「気のせい」ではなく体が感じている変化

雨の日や低気圧が近づくと、関節が痛む、めまいがする、頭が重い、という訴えを高齢の方からよく聞きます。これは「気象病」と呼ばれ、気圧の変動が内耳の受容体を通じて自律神経に影響する可能性があると考えられています。ただし、メカニズムの詳細はまだ研究途上で、エビデンスは限られています。

「気のせい」と一言で片付けるのはやめてほしい、というのが現場の実感です。本人が「今日はつらい」と言っているなら、その感覚は本物です。

一方で、「これさえ使えば治る」とうたう、効果が保証されていない高額なサプリや機器にたどり着いてしまうケースも見てきました。現段階ではエビデンスの高い確立された治療法はまだなく、対症療法と観察が中心です。つらい症状が続くときは、まずかかりつけ医に相談すると、症状を和らげる選択肢を一緒に探せます。

家族にできることは、「天気が悪い日はどんな症状が出るか」を記録しておくことです。症状と天候のパターンがわかると、医師への相談もスムーズになります。症状が強い日は無理な外出を避け、楽な姿勢で過ごしてもらうだけでも違います。


気分の落ち込み・意欲の低下——日照不足と閉じこもりが重なるとき

梅雨の時期は日照時間が大きく減ります。さらに雨が続けば外出が減り、体を動かす機会も、人と話す機会も少なくなります。

この「動かない・話さない」が数週間続くと、筋力・バランス感覚・認知機能の低下(フレイルの加速)につながります。独居の方は特に、会話がほぼゼロになる日が出てくることもあります。

「梅雨だから仕方ない」と長く様子を見続けるのは、できれば避けてほしいと思います。気分の落ち込みや意欲の低下が1〜2週間続き、生活に支障が出ているようなら、早めにかかりつけ医に相談してください。高齢者の場合、気分の問題に見えても、甲状腺の働きの低下や持病の悪化など身体的な原因が隠れていることもあります。

日常の工夫として、電話やビデオ通話でこまめに声を聞くことが大きな支えになります。会話があるだけで、状態が安定しやすいのです。また、外に出なくても椅子に座ったままできる軽い体操を習慣にしてもらうのも有効です。

フレイルの予防については、家族ができるフレイル予防にまとめていますので、あわせて参考にしてください。


食欲低下・低栄養——「食べなくても仕方ない」では済まない理由

蒸し暑い時期は、高齢者に限らず食欲が落ちます。しかし高齢者の場合、消化機能自体も低下していることが多く、食事量の減少が低栄養に直結しやすいのです。

厚生労働省の令和元年(2019年)国民健康・栄養調査によると、65歳以上でBMIが20以下の「低栄養傾向」にある方は男性で約12.4%、女性で約20.7%にのぼります。特に女性は5人に1人という割合です。

「食べさせなければ」と焦るあまり、食事の場が苦痛になってしまうケースがあります。無理強いは逆効果です。

1回の量を減らして回数を増やす、食べやすいものを中心に用意する(そうめん、豆腐、ゼリーなど)といった工夫から始めてみてください。

また、梅雨から夏にかけては細菌性食中毒が増える時期です。作り置きの保存温度管理、食べ残しの早めの処理には特に気をつけてください。食欲が落ちているときに食中毒が重なると、一気に体力を奪われます。


転倒——梅雨の室内が「滑る」という盲点

介護保険の要介護認定を受けている方を対象にした調査(厚生労働省 令和4年国民生活基礎調査)では、転倒・骨折が要介護になった原因の第3位(13.0%)を占めています。転倒が単なるケガで終わらず、その後の生活を一変させることがある——数字がそれを示しています。

梅雨の時期は、外出先だけでなく室内の床が滑りやすくなることを見落としがちです。湿気で玄関の框や廊下、浴室の床が滑りやすくなります。そこに、気象病によるめまいや立ちくらみが重なると、転倒リスクは一気に上がります。

やりがちなNGは、「スリッパや靴下をはいているから大丈夫」という思い込みです。薄底のスリッパや滑りやすい靴下は、かえって危険になることがあります。

まず確認してほしいのは、玄関・脱衣所・浴室の滑り止めマットが劣化していないかどうかです。夜間のトイレ動線に足元ライトを設置することも、効果が高い対策です。「つかまれる場所」(手すり、丈夫な家具)が動線上にあるかも見直してみてください。

転倒で骨折し、長期臥床になると褥瘡(床ずれ)のリスクも高まります。褥瘡についても知っておきたい方は、褥瘡(床ずれ)の予防をご覧ください。


このサインが出たら迷わず連絡を——受診・救急の目安

高齢者は体調の変化が急に進むことがあります。「大げさかな」と迷う場面こそ、早めに動くのが安全です。緊急度の目安を2段階で整理します。

迷わず119番を

次のような状態が見られたら、すぐに救急車を呼んでください。

「救急車を呼ぶほどじゃないかも」と思うこともあるかもしれませんが、迷ったら呼んでいい状態です。

当日〜翌日に連絡を

緊急ではないけれど早めに動いてほしい状態もあります。

状態目安となる行動
半日以上尿が出ない・尿の色が茶褐色当日中にかかりつけ医または訪問看護師に連絡
転倒後に痛みがある・変形している当日に整形外科を受診
2日以上ほとんど食べられない当日中に医療・介護チームへ連絡(夜間・休日は訪問看護の緊急連絡先へ)
気分の落ち込みや意欲低下が1〜2週間続き生活に支障かかりつけ医への相談を検討

※持病(糖尿病・腎臓病・心臓病など)がある方や独居の方は、判断の基準を早めにしてください。

「連絡していいのかな」と遠慮する必要はありません。早めの連絡が、重篤化を防ぐことにつながります。

受診と救急の判断に迷う場面では、救急車を呼ぶか迷ったときの判断ポイントも参考にしてみてください。


介護する家族自身のことも忘れずに

梅雨の体調管理について書いてきましたが、最後に一つ伝えさせてください。

介護している方自身も、この時期は体調を崩しやすくなります。気圧の変動は家族にも影響しますし、蒸し暑さの中で介護を続けることは、想像以上に体力を消耗します。

自分のことを後回しにしているうちに疲弊して、「なんかいつもと違う」という大切なサインを見逃してしまうことがあります。

完璧に管理できなくていいのです。「今日の親の顔色がいつもと違った」「食欲がなさそうだった」と気づいて、訪問看護師やケアマネジャーに一言伝えるだけで十分です。専門職はその一言をつなぐのが仕事です。抱え込まないでください。


まとめ——今日からできるチェックリスト

梅雨の時期に在宅の高齢者の家族が意識してほしいことを、6つにまとめます。

難しいことを一度に全部やらなくていいと思います。まず今日、親に一本電話してみてください。「最近どう?」その一言から始めれば十分です。


参考文献

あわせてどうぞ