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高齢者が水を飲まない本当の理由|夜間頻尿と脱水の悪循環

公開: 2026年7月19日

高齢者が水を飲まない本当の理由|夜間頻尿と脱水の悪循環
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

「夜中にトイレで起こしたくないから」と、親が水を飲むのを我慢していませんか。その気遣いが、実は脱水や熱中症のリスクを高めてしまうことがあります。本記事では、看護師・介護福祉士として在宅の高齢者と向き合ってきた経験をもとに、夜間頻尿が起こる理由と、水分を止めずに付き合う工夫、受診を考えるタイミングをわかりやすく解説します。

なぜ「トイレが心配で水を飲まない」高齢者が増えるのか

「また夜中にトイレか…」多くの高齢者が抱える悩み

夜中に何度もトイレで目が覚める。そんな悩みを抱える高齢者は、決して少なくありません。

2023年に行われた全国疫学調査(JaCS 2023)によると、1晩に2回以上トイレに起きる「夜間頻尿」がある方の割合は、80歳以上の男性で58.1%、女性で38.2%にのぼるとされています。年齢を重ねるほど多くの方が経験する、身近な症状だといえるのではないでしょうか。

「うちの親だけ」「自分だけ」と感じてしまいがちですが、実際には同じ悩みを抱える高齢者がたくさんいます。まずはそのことを知るだけでも、少し気持ちが軽くなるかもしれません。

水を我慢すると何が起きるのか(結論の先出し)

こうした夜間のトイレへの不安から、「水分を控えれば楽になるのでは」と考える方は少なくありません。私も在宅で高齢者と関わる中で、家族が良かれと思って水分を減らしている場面を何度も見てきました。

しかし、水分を我慢することは、脱水や熱中症のリスクを高め、夏場は脳梗塞などのきっかけになる可能性も指摘されています。総務省消防庁の発表によると、2025年5〜9月の熱中症による救急搬送者数は全国で100,510人と過去最多を記録しました。うち65歳以上は57,433人で、全体の57.1%を占めています。

しかも、夜間頻尿の原因の多くは水分だけの問題ではないため、我慢しても期待したほどトイレの回数は減らず、「まだ足りない」とさらに控えて脱水のリスクだけが積み上がっていく——。この記事では、そんな悪循環を断ち切るための考え方をお伝えします。

夜間頻尿はなぜ起こる?高齢者の体で起きている変化

夜間多尿・膀胱蓄尿障害・睡眠障害という3つのタイプ

そもそも、夜間頻尿はなぜ起こるのでしょうか。

日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会による「夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]」(2020年発行、2024年修正版)では、原因を大きく3つに分類しています。

これらは単独ではなく、複数が重なって起こることも多いとされています。「年のせい」とひとくくりにされがちですが、実はいくつかの要因が絡み合っているのです。

加齢だけでなく、背景に病気が隠れていることもある

夜間頻尿の背景には、加齢による変化だけでなく、何らかの病気が隠れていることもあります。

例えば男性であれば前立腺肥大症、性別を問わず過活動膀胱(OAB)などが挙げられます。日本排尿機能学会の2002年の疫学調査では、OABの有病率は40歳以上で12.4%、80歳以上では36.8%と報告されました(2023年の再調査では40歳以上で13.8%)。なお、これはOABという状態そのものの割合であり、夜間頻尿の原因の内訳を示す数字ではありません。

また、心不全や睡眠時無呼吸症候群が夜間の尿量増加に関わっている可能性も指摘されています。すべてが病気によるものとは限りませんが、「単なる老化現象」と決めつけず、気になる場合は医療機関に相談してみることをおすすめします(受診の目安は後ほど紹介します)。

認知症があると、不安からさらに水分を拒むことも

認知症のある方の場合、事情はもう少し複雑になります。

「一人でトイレに行くのが不安」「粗相をしたらどうしよう」という気持ちから、水分そのものを拒んでしまう方を、現場で何度も見てきました。本人なりの理由があってのことなので、無理に飲ませようとすると、かえって拒否が強くなることもあります。

こうした場面での関わり方は、認知症のある方が水分を飲まないときの対応でも詳しく紹介しています。

「水を飲ませない」が招く悪循環――脱水・熱中症のリスク

高齢者は脱水に気づきにくい「かくれ脱水」の怖さ

高齢になると、のどの渇きを感じる感覚そのものが鈍くなるといわれています。本人が「大丈夫」と言っていても、実際には脱水が進んでいる、というケースは珍しくありません。

これは「かくれ脱水」と呼ばれる状態で、自覚症状が乏しいぶん、周囲が気づいたときにはすでに進行していることもあります。詳しい見分け方は高齢者のかくれ脱水で紹介していますので、あわせてご覧ください。

熱中症の発生場所は「住居」が最も多い

「熱中症は外で起こるもの」というイメージを持つ方も多いのですが、統計上、発生場所として最も多いのは自宅を含む「住居」です。

総務省消防庁によると、2025年5〜9月の熱中症搬送のうち、発生場所別で最も多かったのは「住居(敷地内を含む)」で38,292人、全体の38.1%でした。冷房を使わず水分も控えている室内は、熱中症のリスクが高い環境になりえます。

住居内での熱中症がなぜ多いのか、詳しくは高齢者の熱中症は屋外より室内で起きるでも解説しています。

「寝る前にコップ一杯」で脳梗塞は防げる?

一方で、「脳梗塞予防のために寝る前はコップ一杯の水を飲むべき」という情報を耳にしたことがある方も多いと思います。

この点について日本泌尿器科学会は、脳梗塞や心筋梗塞の予防を理由に就寝前や夜間に多くの水分をとることには、効果を裏づける科学的根拠はないと説明しています。夜間頻尿がある方はむしろ、就寝前の過剰な水分摂取を控えることが望ましいとされています。なお、国立循環器病研究センターのように、夏の脱水対策として就寝前に適量(コップ1杯程度)の水分を紹介している機関もあります。押さえておきたいのは、「たくさん飲むほど予防になる」という考え方には根拠がない、という点です。

ここで大切なのは、「水分を断つ」ことと「就寝前の飲みすぎに気をつける」ことは、まったく別の話だという点です。この違いを混同しないことが、悪循環を防ぐ第一歩になります。

今日からできる工夫――水分を止めずに夜間頻尿と付き合う

飲むタイミングを「朝〜日中多め、就寝前は控えめ」に変える

対策の基本は、「水分をやめる」のではなく「飲むタイミングを見直す」ことです。

厚生労働省の高齢者向けリーフレットでは、飲料からの水分摂取の目安を1日あたり1.2リットルとしています。あくまで一般的な目安ですが、朝から日中にかけてこまめに飲み、就寝前の大量の水分は避けるといった調整は、多くの方に取り入れやすい工夫ではないでしょうか。のどが渇いたときまで我慢する必要はありません。

なお、心臓や腎臓の病気などで主治医から水分量の指示(制限を含む)を受けている方や、利尿薬を服用中の方は、この目安を自己判断で当てはめず、医師の指示を優先してください。また、飲み込むときにむせやすい、声が湿ったような感じになる、といった様子がある方に水分をこまめに勧めるのは、誤嚥(ごえん)のリスクを伴います。飲ませ方を工夫する前に、医師や訪問看護師などの専門職に相談してみてください。

夜は水分より先に室温・冷房のチェックを

夜間頻尿を気にするあまり、夏場でも冷房を我慢してしまう高齢者も少なくありません。しかし、これも住居内での熱中症リスクを高める要因のひとつです。

夏の夜は、水分量を調整する前に、まず室温と冷房の使い方を見直してみてください。エアコンをつけたがらない背景には、電気代への不安や「冷えすぎるのが苦手」といった理由が隠れていることもあります。詳しくは高齢者がエアコンをつけない理由と夜間熱中症をご覧ください。

環境を整えて「トイレへの不安」自体を減らす

夜間頻尿そのものへの対策として、トイレへの不安を減らす環境づくりも効果的だとされています。

こうした工夫を取り入れる前に、まずは「トイレが心配なんですね」と本人の不安をいったん受け止めることも大切です。不安を否定せずに寄り添う姿勢が、生活の工夫を受け入れてもらいやすくすると感じています。

受診を考えるタイミング――「年のせい」で片付けない

「今すぐ」のサインを先に――こんなときは救急要請を

夜間頻尿や水分の悩みは、基本的には落ち着いて相談すればよいものです。ただし、次のような様子があるときは別です。

こうした場合は、様子を見ずに救急要請(119番)を検討してください。また、意識がはっきりしない方に無理に水を飲ませることは、誤嚥の危険があるため避けましょう。

こんなサインがあれば医療機関へ相談を

緊急ではなくても、以下のようなサインがみられる場合は、一度医療機関に相談することをおすすめします。

これらは必ずしも重大な病気を意味するわけではありませんが、心不全や睡眠時無呼吸症候群など、背景に治療が必要な病気が隠れている可能性もあります。「年のせい」と決めつけず、気になるサインがあれば専門家に相談してみましょう。

何科に相談すればいいか、排尿日誌のすすめ

相談先としては、まずかかりつけ医、症状によっては泌尿器科が適しています。

受診の際は「排尿日誌」をつけておくと、診察がスムーズになります。飲んだ時間と量、トイレに行った時間と量を数日間メモするだけの簡単な記録ですが、医師にとって重要な判断材料になります。

介護する家族へ――「絞ってしまった」自分を責めないでください

夜中に何度も起こされる疲労は、誰にでも起こりうること

ここまで読んで、「うちは水分を絞りすぎていたかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。でも、どうかご自身を責めないでください。

夜中に何度も起こされる生活が続けば、誰でも疲弊します。「少しでも起きる回数を減らしたい」と考えるのは、介護をする方としてごく自然な反応だと私は思います。現場でも、そうしたご家族に何人もお会いしてきました。

大切なのは、責めることではなく、これから少しずつタイミングを変えていくことです。

一人で抱えず、頼れる専門職がいる

夜間頻尿や水分管理の悩みは、家族だけで抱え込む必要はありません。訪問看護師、ケアマネジャー、地域包括支援センターなど、相談できる専門職は複数あります。

「こんなことで相談していいのかな」とためらう方もいますが、日々の小さな困りごとこそ専門職に共有してほしい情報です。頼れる先を持つことは、長く介護を続けるための大切な工夫です。

まとめ

夜間頻尿を心配して水分を控えることは、脱水や熱中症のリスクを高める可能性があります。大切なのは「飲ませない」ことではなく、「飲むタイミングを調整する」ことです。

朝から日中にこまめに水分をとり、就寝前は控えめにする。夏場は水分だけでなく室温や冷房にも気を配る。トイレへの不安には、まず気持ちを受け止めてから環境を整える。こうした小さな積み重ねが、悪循環を防ぐ助けになります。なお、主治医から水分量の指示を受けている方は、医師の指示が最優先です。

気になる症状があれば、一人で抱え込まず、かかりつけ医や泌尿器科、訪問看護師などに相談してみてください。

今日からできる最初の一歩

今日はまず、①主治医から水分や塩分の指示が出ていないか確認する、②飲んだ時間と夜にトイレへ起きた回数を2〜3日メモしてみる、の2つから始めてみませんか。「我慢」ではなく「把握と調整」から入ることが、無理なく続けるコツです。

参考文献

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