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認知症

認知症の親が一人にできない…後追い・繰り返し電話の原因と対応を看護師が解説

公開: 2026年6月14日 / 更新: 2026年9月6日

認知症の親が一人にできない…後追い・繰り返し電話の原因と対応を看護師が解説
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

「トイレにも行けない」「電話が鳴りやまない」「5分でも目を離すと泣き出す」——。

そんな状況が毎日続いていたら、誰だって消耗します。介護している自分を責めながら、それでも関わり続けている。そのしんどさは、本当に本物です。

この記事では、認知症の方が示す強い「見捨てられ不安」について、看護師・介護福祉士として現場で見てきた経験をもとに整理しました。なぜそうなるのか、どう関わると少し楽になるのか、受診の目安はどこか——順番に解説していきます。

まずは、不安を受け止めること、痛みや体調の変化を確認すること、家族が休むための支援を確保することの3つから始めましょう。 後追いだけで原因や認知症の種類は判断できません。急に様子が変わった場合は、日常の工夫だけで様子を見続けず、医療機関へ相談してください。

メモや見守り機器を使えば一人にしてよい、という意味ではありません。転倒・外へ出て戻れないこと・火の取り扱いなどの心配があるときは、ケアマネジャーと相談し、人による見守りや介護サービスを先に整えてください。


「見捨てられ不安」とはどんな状態か

後追い・繰り返し電話は「問題行動」ではない

認知症が進むと、介護している家族のそばから離れられなくなることがあります。

介護する家族の後ろをどこにでもついてくる(シャドーイングと呼ばれます)、台所に立つと後ろから声をかけ続ける、外出すると何十回も電話をかけてくる、施設から家族が帰ろうとすると泣き崩れる——。

こうした行動は「BPSD(行動・心理症状)」に分類されることもありますが、私は現場で「安心希求行動」と捉えるようにしています。本人は「困らせよう」と思っているわけではありません。ただ、安心を求めているのです。その視点を持つだけで、関わり方が少し変わってきます。

後追いだけで認知症の種類は判断できない

不安の表れ方は、認知症の種類や進行の程度だけでなく、本人の生活歴、体調、周囲の環境でも変わります。後追いや電話の回数だけで病型を決めつけず、診断や症状の評価はかかりつけ医に相談してください。


なぜそうなるのか——記憶・不安・体調を分けて考える

「何度説明したか」だけでは解決しないことがある

家族がどこにいるか、いつ戻るかを思い出しにくくなり、不安から確認を繰り返すことがあります。Alzheimer’s Societyも、後追いの背景として、不安や安心を求める気持ち、家族の居場所を忘れることを挙げています。後追い・確認行動の解説

ただし、「安心がまったく残らない」「脳が安心を蓄積できない」と一律には言えません。 説明の内容を忘れても、その場の穏やかな関わりが支えになることはあります。本人に合う短い声かけや、見て分かる予定を試していきましょう。

痛みや生活環境も確認する

痛み、空腹、のどの渇き、便秘、疲れ、感染症、薬の影響、騒音や介護者の交代などが、不安や落ち着かなさに関係することもあります。「認知症だから」と決めつけず、普段との違いを記録し、急な変化は医師に伝えてください。Alzheimer’s Association:不安・興奮の原因と対応

愛着行動の再活性化

もう一つ知っておいてほしいのが「愛着行動の再活性化」という考え方です。

人は不安や恐怖を感じたとき、身近で信頼できる人にそばにいてほしいと感じます。認知症によって自分の置かれた状況がわかりにくくなると、この「安心できる人に近づこうとする働き」が強まると、愛着理論の観点から説明されることもあります。わがままや甘えではなく、脳が安全を確保しようとする自然な反応としてとらえる見方です。

「問題行動」として見るのではなく、「安心を求めているサイン」として受け取ることが、対応の第一歩です。

配偶者への強い疑いなど、別の困りごともある方は、認知症の嫉妬妄想への対応もあわせてご覧ください。


やってはいけないNG対応5つ

「そんなこと、してしまっていた」と思う方もいるかもしれません。でも、知らなかっただけで誰でもやってしまうことです。責めずに読んでください。

① うんざりした表情・溜め息を見せる

記憶障害が進んでも、言葉の内容は忘れても、不快感や安心感といった「感情」は残ることがあるといわれます。「この人は私を迷惑に思っている」という不快な感情だけが残ると、不安がさらに強まります。言葉は忘れても、そのときの感情は残る——これは現場で何度も実感してきたことです。

② 「さっき言ったでしょ」と正論で叱る

正しいことを言っても、本人は「さっき聞いた」という記憶がありません。「責められた」という感情だけが残り、防衛反応から興奮が高まることがあります。

③ 黙って外出する・「すぐ帰る」と言って長時間不在にする

気づいたら誰もいない——この体験は、本人にとって大きな恐怖になりえます。「この人は自分を置いていく」という感覚が積み重なると、不安がより強くなることがあります。とはいえ、どうしても出かけなければならない場面はあります。そんなときは、必要な見守りを家族や介護サービスに依頼したうえで、帰宅時刻のメモなどを補助的に使いましょう。メモや録音は、人による見守りの代わりにはなりません。

④ 施錠して部屋から出られなくする

閉じ込める対応は、恐怖や混乱、事故につながるおそれがあります。外へ出てしまう心配があるときは、家族だけで抱えず、ケアマネジャーや地域包括支援センターに見守りの体制を相談してください。

⑤ 「もう来ないから」「施設に入れる」と脅す

追い詰められたときについ出てしまう言葉ですが、本人の恐怖を一気に高め、その言葉の記憶が残ることもあります。


今日から試せる7つの工夫

以下は安心を支えるための工夫です。一人で過ごせるかどうかは別に確認し、本人が嫌がる方法は無理に続けないでください。

(1)安心の「見える化」

ホワイトボードや紙に、今日の日付・帰宅時刻・次の食事の予定を書いて本人の目線の高さに貼っておく。外出前に本人の前で書くのがポイントです。「○時に帰ってくるよ、ここに書いておいたよ」と見せてから出かけると、不安が和らぎやすくなります。

(2)短い予告と「約束通り帰ったよ」

「○時には必ず戻るよ」と告げてから外出し、帰ったら「約束通り帰ったよ」と声をかける。この小さな積み重ねが、「この人は戻ってくる」という感覚につながることがあります。

(3)日課のルーティンをつくる

起きる・食べる・散歩する・テレビを見る……毎日の流れが一定だと、見通しが立ちやすくなります。手続き記憶(体で覚えた動作)は比較的保たれやすいため、「いつもの順番」が安心を生み出すことがあります。

(4)役割を渡す

テーブルを拭く、フキンをたたむ、玄関の郵便を取ってきてもらう——小さなことでも「頼りにされている」「役に立てた」という感覚は、自己肯定感と落ち着きにつながります。

(5)なじみの物・写真・音楽

思い出の写真を部屋に飾る、好きだった曲をかける、長年使ってきた物を手元に置く。なじみのある刺激が安心感をもたらすことがあります。人形やぬいぐるみを抱いてもらうこと(ドールセラピーと呼ばれる関わり)も、落ち着きに役立つという報告がありますが、合う・合わないの個人差は大きいものです。

同じ話を繰り返すことへの対応と合わせて読みたい方は、認知症が同じ話を繰り返すときの対応もご参照ください。

(6)テクノロジーを活用する

見守りカメラやGPSは、本人の意向やプライバシーに配慮しながら検討する補助の道具です。通知に誰が対応するか、電池切れや通信不良のときにどうするかも決めておきます。機器だけで事故を防げるわけではありません。録音した家族の声を流す機器も、「ひとりじゃない」という感覚を補助する道具として使われることがあります。夕方以降に不安が強まる場合は、認知症の夕暮れ症候群も参考にしてみてください。

(7)デイサービスを活用する

「施設に預けるのは申し訳ない」という気持ちを抱える家族は少なくありません。でも、デイサービスで過ごす時間が本人の生活リズムを整え、日中の安心感にもつながります。家族が休める時間を確保することは、長く介護を続けるために必要なことです。


「優しい嘘」をどう考えるか

「お父さんはどこ?」と亡くなった親を繰り返し探す。「子どもが帰ってくるから待ってる」と毎日言い続ける。

こういうとき、「亡くなった」と正直に告げるべきか、その場を和らげる言葉を選ぶべきか——多くの家族が迷います。

まず試したいのは、嘘でも正論でもなく、**「気持ちを受け止めてから、話題をそっとずらす」**関わりです。「お父さんのことが心配なんですね」と本人の感情にいったん寄り添い、それから「お茶を一緒に飲みましょうか」と別のことへ自然につなぐ。本人の現実を否定せず感情に応えるこうした関わりは、バリデーションと呼ばれ、認知症ケアで大切にされている考え方です。

そのうえで、「嘘は絶対NG」でも「嘘をしてください」でもなく、現場では**「その言葉が、今この瞬間の苦しみを増やさないか」**を判断軸にすることが多いです。

例えば、「お父さんは亡くなった」と伝えるたびに本人が号泣し、数分後にはまた同じ質問をして、また泣く——というサイクルが続くとしたら、それは繰り返す喪失体験になります。そうした場面で、現在進行形のやわらかい言葉がその場の苦しみを和らげることもあります。ただし「出かけている」と伝えたことで本人が玄関で待ち続けたり、探しに出てしまったりすることもあり、万能ではありません。

嘘をつくことで信頼関係が崩れる可能性や、本人の尊厳を傷つけるリスクを指摘する声もあります。正解はひとつではありません。本人の苦痛・安全・信頼関係の3つを天秤にかけながら、その都度考えていくものです。

大切なのは、家族全員・ケアチーム全体で対応を統一することです。ある人は正直に告げ、ある人は和らげる言葉を使う、というバラバラな対応は混乱を招きます。ケアマネや担当者と相談しながら方針を決めることをおすすめします。


こんな変化は早めに受診を

日々の見捨てられ不安とは別に、急いで受診が必要なサインがあります

急な混乱にはせん妄など、体調や薬に関係する変化が隠れていることがあります。一方、抑うつや死にたいという訴えを、すべてせん妄として説明することはできません。普段との違いを医師に伝え、原因を確かめてもらってください。差し迫って本人や周囲の安全が保てない場合は、地域の救急対応につないでください。

受診先はまずかかりつけ医へ。介護の継続やサービス利用の相談は、ケアマネジャー・地域包括支援センターが窓口になります。薬は自己判断で開始・増量せず、医師と相談してください。

受診のときは、医師が状況をつかみやすいように「いつから・どの時間帯に・何をきっかけに・どのくらい続くか」、最近の薬の変更、発熱・脱水・便秘・痛み・睡眠の様子などをメモして持っていくと、相談がスムーズです。

認知症の初期からの変化の流れが気になる方は、認知症の初期症状もご覧ください。


介護している自分を大切に

限界を感じることは、弱さではありません。

本人のそばから離れられず、睡眠や食事が削られているなら、家族の生活を守る支援が必要です。「もっと頑張る」だけで解決しようとしなくて大丈夫です。

「限界です」と感じたときに使える相談窓口を知っておいてください。

「もっと頑張れるはず」と自分を追い込む前に、一度立ち止まって相談してみてください。

詳しくは認知症介護に疲れたときにまとめていますので、合わせて読んでいただければと思います。


まとめ

認知症の方が示す後追いや繰り返しの電話は、「安心を求めているサイン」です。記憶や不安だけでなく、体調や環境の変化も確認しましょう。叱ったり黙って外出したりする対応は逆効果になりやすく、見える化・ルーティン・役割・なじみの刺激といった工夫が助けになることがあります。急激な変化はせん妄の可能性があるため早めの受診を。そして何より、介護している自分自身を大切にしてください。


次のステップ

状況に合わせて、まずはここに連絡してみてください。

解決策を出さなくていい、ただ「こういう状況で困っています」と話すだけでいいのです。あなたが倒れてしまったら、そばで支える人がいなくなります。


参考資料

2026年9月6日に、原因を断定する表現、安全な見守り、受診の目安、相談先を見直しました。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に関する判断は必ず医師にご相談ください。


執筆:宮田浩行(看護師・介護福祉士)


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