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認知症の親が一人にできない…後追い・繰り返し電話の原因と対応を看護師が解説

公開: 2026年6月14日

認知症の親が一人にできない…後追い・繰り返し電話の原因と対応を看護師が解説

「トイレにも行けない」「電話が鳴りやまない」「5分でも目を離すと泣き出す」——。

そんな状況が毎日続いていたら、誰だって消耗します。介護している自分を責めながら、それでも関わり続けている。そのしんどさは、本当に本物です。

この記事では、認知症の方が示す強い「見捨てられ不安」について、看護師・介護福祉士として現場で見てきた経験をもとに整理しました。なぜそうなるのか、どう関わると少し楽になるのか、受診の目安はどこか——順番に解説していきます。


「見捨てられ不安」とはどんな状態か

後追い・繰り返し電話は「問題行動」ではない

認知症が進むと、介護している家族のそばから離れられなくなることがあります。

介護する家族の後ろをどこにでもついてくる(シャドーイングと呼ばれます)、台所に立つと後ろから声をかけ続ける、外出すると何十回も電話をかけてくる、施設から家族が帰ろうとすると泣き崩れる——。

こうした行動は「BPSD(行動・心理症状)」に分類されることもありますが、私は現場で「安心希求行動」と捉えるようにしています。本人は「困らせよう」と思っているわけではありません。ただ、安心を求めているのです。その視点を持つだけで、関わり方が少し変わってきます。

どんなタイプの認知症に多いか

よく見られるのはアルツハイマー型認知症の中期以降といわれます。記憶障害が進み、誰かのそばにいないと強い不安に駆られる時期に、こうした行動が目立ちやすくなります。

レビー小体型認知症では、幻視(実際にはいない人や虫が見える)が不安を引き起こし、そばに人がいないと恐怖が高まることがあります。前頭側頭型認知症では、感情のコントロールが難しくなり、不安の表れ方が異なる場合もあります。

ただし、症状だけから病型を判断するのは難しく、診断にはかかりつけ医や専門外来での評価が必要です。「うちの親はどのタイプ?」と思ったら、まずかかりつけ医に相談してみてください。


なぜそうなるのか——脳と心理の話

「安心の貯金」がゼロになっている状態

一番伝えたいことを先に書きます。

認知症の方に何度説明しても通じないのは、**「説明が足りないから」ではなく「安心が積み重ならない状態だから」**です。

記憶障害が進むと、数分前のことが記憶に残りません。「さっき話した」「さっき確認した」という体験が消えてしまうため、再会するたびに安心がリセットされます。何度確認させても落ち着かないのは、わがままでも頑固でもなく、脳の機能として安心が蓄積できなくなっているからです。

また見当識障害(今がいつで、ここがどこで、目の前の人が誰かわかりにくくなる状態)が加わると、「この人は信頼できる人だ」という感覚そのものが揺らいできます。そこへ実行機能の低下(先のことを予測・計画する力の衰え)が重なり、「次にどうなるか」が見通せなくなる。だから、目の前の人が視界から消えるだけで強い不安が生じます。

現場でよく家族から「何度説明しても通じない、もう限界です」と涙ながらに聞かされてきました。通じていないのではなく、安心が次の瞬間には消えてしまう——それを理解するだけで、家族の怒りや諦めが少しやわらぐことがあります。

愛着行動の再活性化

もう一つ知っておいてほしいのが「愛着行動の再活性化」という考え方です。

人は不安や恐怖を感じたとき、身近で信頼できる人にそばにいてほしいと感じます。認知症によって自分の置かれた状況がわかりにくくなると、この「安心できる人に近づこうとする働き」が強まると、愛着理論の観点から説明されることもあります。わがままや甘えではなく、脳が安全を確保しようとする自然な反応としてとらえる見方です。

「問題行動」として見るのではなく、「安心を求めているサイン」として受け取ることが、対応の第一歩です。

なお、こうした不安が強い方は、嫉妬妄想(配偶者が浮気をしているという強い思い込み)を示すことも少なくありません。不安が根っこにある点でつながっています。詳しくは認知症の嫉妬妄想への対応もあわせてご覧ください。


やってはいけないNG対応5つ

「そんなこと、してしまっていた」と思う方もいるかもしれません。でも、知らなかっただけで誰でもやってしまうことです。責めずに読んでください。

① うんざりした表情・溜め息を見せる

記憶障害が進んでも、言葉の内容は忘れても、不快感や安心感といった「感情」は残ることがあるといわれます。「この人は私を迷惑に思っている」という不快な感情だけが残ると、不安がさらに強まります。言葉は忘れても、そのときの感情は残る——これは現場で何度も実感してきたことです。

② 「さっき言ったでしょ」と正論で叱る

正しいことを言っても、本人は「さっき聞いた」という記憶がありません。「責められた」という感情だけが残り、防衛反応から興奮が高まることがあります。

③ 黙って外出する・「すぐ帰る」と言って長時間不在にする

気づいたら誰もいない——この体験は、本人にとって大きな恐怖になりえます。「この人は自分を置いていく」という感覚が積み重なると、不安がより強くなることがあります。とはいえ、どうしても出かけなければならない場面はあります。そんなときは、後で紹介する「帰宅時刻を書いたメモ」「家族の声の録音」「短時間の見守り依頼」などを組み合わせて、不在の不安をやわらげる工夫を添えてみてください。

④ 施錠して部屋から出られなくする

身体拘束は介護保険指定基準で原則禁止されており、虐待防止の観点からも問題があります。恐怖や混乱を増幅させ、状態が悪化することがあります。

⑤ 「もう来ないから」「施設に入れる」と脅す

追い詰められたときについ出てしまう言葉ですが、本人の恐怖を一気に高め、その言葉の記憶が残ることもあります。


今日から試せる7つの工夫

(1)安心の「見える化」

ホワイトボードや紙に、今日の日付・帰宅時刻・次の食事の予定を書いて本人の目線の高さに貼っておく。外出前に本人の前で書くのがポイントです。「○時に帰ってくるよ、ここに書いておいたよ」と見せてから出かけると、不安が和らぎやすくなります。

(2)短い予告と「約束通り帰ったよ」

「○時には必ず戻るよ」と告げてから外出し、帰ったら「約束通り帰ったよ」と声をかける。この小さな積み重ねが、「この人は戻ってくる」という感覚につながることがあります。

(3)日課のルーティンをつくる

起きる・食べる・散歩する・テレビを見る……毎日の流れが一定だと、見通しが立ちやすくなります。手続き記憶(体で覚えた動作)は比較的保たれやすいため、「いつもの順番」が安心を生み出すことがあります。

(4)役割を渡す

テーブルを拭く、フキンをたたむ、玄関の郵便を取ってきてもらう——小さなことでも「頼りにされている」「役に立てた」という感覚は、自己肯定感と落ち着きにつながります。

(5)なじみの物・写真・音楽

思い出の写真を部屋に飾る、好きだった曲をかける、長年使ってきた物を手元に置く。なじみのある刺激が安心感をもたらすことがあります。人形やぬいぐるみを抱いてもらうこと(ドールセラピーと呼ばれる関わり)も、落ち着きに役立つという報告がありますが、合う・合わないの個人差は大きいものです。

同じ話を繰り返すことへの対応と合わせて読みたい方は、認知症が同じ話を繰り返すときの対応もご参照ください。

(6)テクノロジーを活用する

見守りカメラやGPSで居場所を確認できる環境を整えると、介護者側の不安が減ります。録音した家族の声を流す機器も、「ひとりじゃない」という感覚を補助する道具として使われることがあります。夕方以降に不安が強まる場合は、認知症の夕暮れ症候群も参考にしてみてください。

(7)デイサービスを活用する

「施設に預けるのは申し訳ない」という気持ちを抱える家族は少なくありません。でも、デイサービスで過ごす時間が本人の生活リズムを整え、日中の安心感にもつながります。家族が休める時間を確保することは、長く介護を続けるために必要なことです。


「優しい嘘」をどう考えるか

「お父さんはどこ?」と亡くなった親を繰り返し探す。「子どもが帰ってくるから待ってる」と毎日言い続ける。

こういうとき、「亡くなった」と正直に告げるべきか、その場を和らげる言葉を選ぶべきか——多くの家族が迷います。

まず試したいのは、嘘でも正論でもなく、**「気持ちを受け止めてから、話題をそっとずらす」**関わりです。「お父さんのことが心配なんですね」と本人の感情にいったん寄り添い、それから「お茶を一緒に飲みましょうか」と別のことへ自然につなぐ。本人の現実を否定せず感情に応えるこうした関わりは、バリデーションと呼ばれ、認知症ケアで大切にされている考え方です。

そのうえで、「嘘は絶対NG」でも「嘘をしてください」でもなく、現場では**「その言葉が、今この瞬間の苦しみを増やさないか」**を判断軸にすることが多いです。

例えば、「お父さんは亡くなった」と伝えるたびに本人が号泣し、数分後にはまた同じ質問をして、また泣く——というサイクルが続くとしたら、それは繰り返す喪失体験になります。そうした場面で、現在進行形のやわらかい言葉がその場の苦しみを和らげることもあります。ただし「出かけている」と伝えたことで本人が玄関で待ち続けたり、探しに出てしまったりすることもあり、万能ではありません。

嘘をつくことで信頼関係が崩れる可能性や、本人の尊厳を傷つけるリスクを指摘する声もあります。正解はひとつではありません。本人の苦痛・安全・信頼関係の3つを天秤にかけながら、その都度考えていくものです。

大切なのは、家族全員・ケアチーム全体で対応を統一することです。ある人は正直に告げ、ある人は和らげる言葉を使う、というバラバラな対応は混乱を招きます。ケアマネや担当者と相談しながら方針を決めることをおすすめします。


こんな変化は早めに受診を

日々の見捨てられ不安とは別に、急いで受診が必要なサインがあります

これらは「せん妄」の可能性があります。感染症・脱水・薬の副作用などが引き金になることが多く、原因に対応することで改善が期待できる場合があります。ただし放置は危険で、早急な医学的評価が必要です。認知症の進行と思い込んで見過ごすと、身体の異変を見落とすことにもなりかねません。

受診先は、かかりつけ医・もの忘れ外来・認知症疾患医療センターが基本です。精神症状が前面に出ている場合は精神科・老年精神科も選択肢に入ります。「どこに行けばいいかわからない」という場合は、まず地域包括支援センターに電話してみてください。

なお、「薬を飲ませれば落ち着く」と考える方もいますが、それは単純ではありません。環境調整・コミュニケーションの工夫・日課の整備といった、薬を使わない関わりがまず大切にされており、薬物療法はあくまで医師の判断のもとで慎重に検討されるものです。医師がBPSD(行動・心理症状)に薬を使う際の指針である「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」(2025年6月改訂・日本認知症学会ほか6学会合同監修)でも、薬以外の対応をまず検討する方針が示されています。

受診のときは、医師が状況をつかみやすいように「いつから・どの時間帯に・何をきっかけに・どのくらい続くか」、最近の薬の変更、発熱・脱水・便秘・痛み・睡眠の様子などをメモして持っていくと、相談がスムーズです。

認知症の初期からの変化の流れが気になる方は、認知症の初期症状もご覧ください。


介護している自分を大切に

限界を感じることは、弱さではありません。

2022年の国民生活基礎調査によると、要介護の方とその主な介護者がともに75歳以上という「老老介護」の割合は35.7%に上っています。あなただけが特別に追い詰められているわけではなく、多くの家族が同じような状況の中で踏ん張っています。

「限界です」と感じたときに使える相談窓口を知っておいてください。

「もっと頑張れるはず」と自分を追い込む前に、一度立ち止まって相談してみてください。

詳しくは認知症介護に疲れたときにまとめていますので、合わせて読んでいただければと思います。


まとめ

認知症の方が示す後追いや繰り返しの電話は、「安心を求めているサイン」です。記憶障害によって安心が積み重ならない状態であることを理解すると、関わり方が変わってきます。叱ったり黙って外出したりする対応は逆効果になりやすく、見える化・ルーティン・役割・なじみの刺激といった工夫が助けになることがあります。急激な変化はせん妄の可能性があるため早めの受診を。そして何より、介護している自分自身を大切にしてください。


次のステップ

状況に合わせて、まずはここに連絡してみてください。

解決策を出さなくていい、ただ「こういう状況で困っています」と話すだけでいいのです。あなたが倒れてしまったら、そばで支える人がいなくなります。


参考資料

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療に関する判断は必ず医師にご相談ください。


執筆:宮田浩行(看護師・介護福祉士)


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