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高齢者の夏バテ・食欲低下|低栄養を防ぐ工夫と受診目安

公開: 2026年7月18日

高齢者の夏バテ・食欲低下|低栄養を防ぐ工夫と受診目安
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

「暑いから仕方ない」と思っていた食欲低下が、実は低栄養の入り口かもしれません。高齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく、そうめんやアイスだけで済ませるうちに、体力や筋力が少しずつ落ちていくことがあります。この記事では、訪問看護師として在宅高齢者を見てきた経験をもとに、夏の食欲低下が低栄養につながるしくみ、やってしまいがちなNG対応、今日からできる食事の工夫、そして受診の目安をお伝えします。

なぜ高齢者は夏に食欲が落ちるのか

暑さも喉の渇きも「感じにくい」体のしくみ

「うちの親、あんまり暑がらないんです」という声を、訪問看護の現場でよく耳にします。実はこれ、涼しいからではなく、暑さそのものを感じにくくなっている可能性があります。

加齢に伴って、体温を調節するしくみや、喉の渇きを感じる脳の中枢(口渇中枢)の感受性が低下していくことが知られています。つまり、本人が「喉が渇いた」と言わないからといって、水分が足りているとは限らないのです。

この「感じにくさ」は、思っている以上に注意が必要です。総務省消防庁の発表によると、2025年5〜9月の熱中症による救急搬送は全国で10万510人にのぼり、そのうち65歳以上が5万7,433人と、全体の57.1%を占めました。調査が始まった平成20年以降で最も多い数字です。前年の2024年も65歳以上の構成比は57.4%と高く、高齢者が熱中症のリスクにさらされやすい状況が続いています。

「今のところ元気そうだから大丈夫」ではなく、「感じにくいからこそ、こちらが気にかけてあげる」という視点を持っていただけたらと思います。梅雨時期からの体調管理については、梅雨時期からの在宅高齢者の体調管理でも詳しく解説していますので、あわせて読んでみてください。

暑さの消耗→食欲低下→偏った食事、という悪循環

訪問看護をしていると、夏場によく見かけるパターンがあります。まず暑さで体力を消耗し、疲労がなかなか抜けません。すると食欲が落ち、食べる量そのものが減っていきます。

食べる量が減ると、口当たりのよい冷たいものに手が伸びやすくなります。そうめん、冷やっこ、アイスクリーム。どれも悪いものではありませんが、これだけが続くと、体を動かすためのエネルギーやたんぱく質が不足しがちです。

栄養が足りない状態が続くと、当然ながら元気も出てきません。「食べたくない→食べない→さらに元気が出ない→ますます食べたくない」という悪循環に入り込んでしまうのです。これは特別な人に起こることではなく、暑い時期の高齢者であれば誰にでも起こりうる流れだと感じています。ただし、後半でお伝えするように、食欲低下の裏に別の原因が隠れていることもあります。

脱水のサインについては高齢者の熱中症は室内でも起こる、脱水のサインを見逃さないためにでまとめていますので、あわせてチェックしてみてください。

そうめん・アイスだけが続くと起こること(フレイルサイクル)

持病のない方であれば、冷たい麺類中心の食事が数日あったからといって、過度に心配しすぎる必要はありません。ただ、これが数週間、数ヶ月と続いたり、ふだんと明らかに様子が違ったりするときは話が変わってきます。

そうめんやアイスは炭水化物や糖分が中心で、筋肉のもとになるたんぱく質は多くありません。たんぱく質が不足した状態が続くと、筋力が落ち、動くこと自体がおっくうになります。動かなくなると、さらに食欲が落ちる。これが「フレイル」と呼ばれる、心身が弱っていくサイクルの入り口になることがあります。

フレイルが進んだ状態で、筋肉量や筋力が特に低下しているものは「サルコペニア」と呼ばれます。どちらも高齢者に特有の言葉ですが、要は「食べない→動けない→さらに食べない」の連鎖だとイメージしていただければと思います。

厚生労働省の令和4年国民健康・栄養調査によると、65歳以上でBMI20以下の「低栄養傾向」にある方は、男性12.9%、女性22.0%にのぼります。決してめずらしい状態ではない、ということです。

フレイル予防について、家族にできる工夫はフレイルを予防するために家族ができることでご紹介していますので、こちらもぜひ参考にしてください。

よかれと思ってやりがちなNG対応

「食べないなら好きなものだけでいい」の落とし穴

「本人が食べたいと言うものを出してあげたい」という気持ちは、とても自然なものです。無理に食べさせようとするより、ずっと優しい対応だと思います。

ただ、それが毎日そうめんやアイスだけになってしまうと、栄養バランスが偏ったままになってしまいます。これは決して家族の対応が間違っているという話ではありません。暑さで作る側の体力も落ちますし、品数を増やす余裕がない日があるのは当たり前のことです。

「好きなものを出しつつ、そこに少しだけ栄養を足す」という考え方に切り替えてみると、無理なく続けやすくなります。具体的な工夫は、後ほどの章でご紹介します。

水分さえ摂っていれば安心、という思い込み

「食べなくても、水分さえ摂っていれば大丈夫」と考えている方は少なくありません。脱水を防ぐという意味では、水分補給はもちろん大切です。

ただ、水分だけではエネルギーやたんぱく質は補えません。麦茶やお水をたくさん飲んでいても、食事量が落ちたままでは、体力や筋力の低下は進んでいってしまいます。

経口補水液やゼリー飲料、栄養補助食品などは、食事が思うように摂れないときの選択肢の一つになります。ただし、これらは万能の解決策ではなく、あくまで食事を補うものです。持病があり水分制限が必要な方などもいますので、日常的に取り入れる場合は、かかりつけ医や薬剤師に相談しながら選んでいただくと安心です。

本人がエアコンを嫌がるので、家族も我慢に付き合ってしまう

「親がエアコンを嫌がるので、うちも我慢しています」という声も、訪問先でよく聞きます。電気代を気にしていたり、冷えが苦手だったりと、理由は人それぞれです。

ただ、室温が高い状態が続くと、それだけで体力を消耗し、食欲低下にもつながります。室温管理は、食欲や体力を維持するための土台のようなものだと考えていただければと思います。

高齢者がエアコンを嫌がる理由と、その対応の工夫については高齢者がエアコンをつけたがらない理由と夜間熱中症のリスクで詳しくお伝えしていますので、ぜひあわせてお読みください。

今日からできる食事の工夫

なお、持病で塩分・水分・カリウムなどの制限がある方や、むせやすいなど飲み込みに心配がある方は、ここで紹介する一般的な工夫よりも、主治医や管理栄養士からの個別の指示を優先してください。

「少量・高栄養」で一皿に力を集める

品数を増やすのが大変な日は、無理に頑張らなくて大丈夫です。それよりも、一皿の中にぎゅっと栄養を集めることを意識してみてください。

例えば、そうめんにゆで卵や錦糸卵を添える、冷やっこに納豆やしらすをのせる、ヨーグルトにきな粉やはちみつを添える。少しの工夫で、たんぱく質やエネルギーを底上げできます。品数は少なくていい、というのは覚えておいていただきたいポイントです。

温度・食感・香りを変えてみる

夏は冷たいものばかりに偏りがちですが、実は温かい汁物の香りが食欲を刺激することもあります。味噌汁や、だしの効いたお吸い物を一品添えるだけでも、食欲のスイッチが入ることがあります。

また、酢の物やレモン、梅干しなど酸味のあるものを取り入れると、さっぱりとして食べやすくなる方も多いです。食感を変える、香りを変える、温度を変える。この3つを意識してみると、レパートリーの幅が広がりやすくなります。

「1日3食」にこだわらない、少量頻回食

「3食きちんと食べさせなければ」というプレッシャーを感じている方も多いのではないでしょうか。ですが、一度にたくさん食べられない方には、少量を何回かに分けて食べる「少量頻回食」という考え方もあります。

食事と食事の間に、プリンや果物、栄養補助のゼリーなどを間食として挟むのも一つの方法です。間食も立派な栄養源になりますので、3食にこだわりすぎず、1日トータルでの栄養量を見てあげるくらいの気持ちで十分だと思います。

家族だけで抱えない、訪問介護・配食サービスの活用

毎日の食事作りを、家族だけで完璧にこなそうとする必要はありません。訪問介護のヘルパーに調理をお願いしたり(ケアプランの内容によって頼める範囲が変わるため、まずはケアマネジャーに相談してみてください)、高齢者向けの配食サービスを利用したりすることも、立派な選択肢です。

栄養バランスを考えた宅配食を活用すれば、家族の負担を減らしながら、必要な栄養を確保しやすくなります。ケアマネジャーに相談すれば、地域で使えるサービスを紹介してもらえることも多いので、一人で抱え込まず、周りの手を借りてみてください。

「様子見でよい」と「相談すべきサイン」の見分け方

体重の変化をものさしにする

食欲が落ちているとき、一番わかりやすい目安になるのが体重です。感覚だけで「痩せてきたかも」と判断するより、週に1回、同じ条件で体重を測る習慣をつけてみてください。

低栄養の評価に国際的に使われている基準(GLIM基準)では、「過去6ヶ月以内で5%を超える体重減少」が判定項目の一つとされています。もちろん、体重だけで低栄養かどうかが決まるわけではありませんし、「この数字を超えたら病気」という意味でもありません。**「早めに相談するきっかけ」**として知っておいていただきたい目安です。

例えば体重50kgの方であれば、2.5kgを超える減少がこれにあたります。思っているより小さな変化かもしれません。だからこそ、体重を定期的に記録しておくことが、変化に気づく助けになります。

食欲低下の裏に隠れていることもある

食欲が落ちる原因は、暑さや偏った食事だけとは限りません。服用しているお薬の影響で味覚や食欲が変化することもありますし(気になる場合も自己判断で中止せず、処方医や薬剤師に相談してください)、気分の落ち込みが食欲に影響していることもあります。

また、認知症のある方では、食事そのものへの関心が薄れたり、食べ方がわからなくなったりすることで、食事量が減ることもあります。これらは単純な「食欲不振」として片付けられない場合もあるため、気になる変化があれば、かかりつけ医や訪問看護師に相談してみることをおすすめします。

認知症のある方の食事対応については、認知症で食事を食べないときの対応で詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。

すぐに医療機関へ相談したいサイン

以下のような様子が見られるときは、「様子を見る」よりも「早めに相談する」ことをおすすめします。

こうしたサインがあるときは、様子を見て悪化を待つのではなく、かかりつけ医や訪問看護ステーションに連絡してください。呼びかけへの反応がおかしい、水分をまったく受けつけないといったときは、ためらわず119番へ。救急車を呼ぶか迷うときは、救急安心センター(#7119、実施地域の場合)に電話で相談する方法もあります。相談すること自体、決して大げさなことではありません。

食べてくれない日が続くときの、介護者自身の心のケア

「食べさせられない自分」を責めなくていい

訪問看護で出会ったご家族の中に、「せっかく作ったのに、残されるとつらくて、だんだん作るのが怖くなってきました」と話してくださった方がいました(これは複数のご家族から伺った声をもとに、個人が特定されないよう再構成したエピソードです)。

一生懸命作った食事を残されると、拒否されたように感じてしまうこともあると思います。ですが、食べないのは、あなたの作り方や愛情が足りないからではありません。暑さや体調、加齢による変化など、様々な要因が重なって起きていることがほとんどです。

厚生労働省の国民生活基礎調査でも、同居で介護をしている家族の約6割が、日常生活での悩みやストレスを抱えていると回答しています。あなたが感じている負担感は、あなただけのものではないということを、まず知っておいていただきたいと思います。

うまくいかない日があっていい、完璧を目指さない

訪問先で私がよくお伝えするのは、「今日は食べられなかったな、で終わっていいんですよ」という言葉です。1食、1日がうまくいかない日があっても、翌日また別の形で補っていければ大丈夫なことがほとんどです。食べられない日が何日も続くときは、抱え込まずにかかりつけ医や訪問看護師を頼ってください。

介護は毎日続くものだからこそ、完璧を目指すと、続けること自体が苦しくなってしまいます。うまくいかない日があって当たり前、そのくらいの気持ちで向き合っていただければと思います。

まとめ|今日からできる小さな一歩

高齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく、そうめんやアイスに偏った食事が続くことで、気づかないうちに低栄養が進んでしまうことがあります。品数を増やすより一皿に栄養を集める、少量頻回食にする、周囲のサービスも頼るといった工夫で、無理なく食事量を支えることができます。

そして、体重の変化は、食欲低下が心配なレベルかどうかを見極める、わかりやすいものさしになります。まずは今日、体重計に乗ってみる。そして週1回、同じ時間帯・同じ服装で記録してみる。それだけで、変化にぐっと気づきやすくなります。ぐったりしている、嘔吐が続くなど気になるサインがあれば、様子を見すぎず、かかりつけ医や訪問看護に相談していただければと思います。

参考文献

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