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認知症で怒りっぽくなった家族への対応|原因とNG行動・今日からできる工夫

公開: 2026年6月18日

認知症で怒りっぽくなった家族への対応|原因とNG行動・今日からできる工夫

「あんなに穏やかだった人が、なぜこんなに怒るようになったんだろう」そう感じている方は、決してひとりではありません。認知症のある方の怒りやすさは、性格が変わったのでも、あなたの介護の仕方が悪いのでもありません。脳の病気が引き起こしている「症状のひとつ」です。看護師・介護福祉士として15年以上、現場で多くの家族の方と向き合ってきた経験をもとに、原因と今日からできる工夫をお伝えします。

認知症で怒りっぽくなるのは「症状のひとつ」です

怒りやすくなる症状は珍しくない

認知症と聞くと「もの忘れ」をイメージする方が多いと思います。でも実際の現場では、怒りっぽさや興奮のほうが、家族にとってより大きな負担になっていることが少なくありません。

認知症に伴う行動・気持ちの変化(専門的にはBPSDと呼びます)のなかでも、怒りや興奮は頻度が高いものです。「突然怒鳴る」「些細なことで激しく怒る」「強い言葉が出る」——これらはすべて、脳の変化が引き起こしている症状です。本人がわざとやっているのではありません。

厚生労働省の「認知症施策推進基本計画」(令和6年12月)によると、2040年には認知症のある方が約584万人(高齢者のおよそ7人に1人)にのぼると推計されています。それだけ多くの家庭が、同じ悩みを抱えているということでもあります。

「人が変わった」と感じるのはあなたのせいではない

「何十年も一緒にいたのに、こんな言葉を言う人じゃなかった」そう感じている方は多いです。その感覚は、まったく正しいです。本人も、本来はそんなことを言いたいわけではないのです。

怒りや強い言葉は、本人の苦しさや不安が表に出てきたもの——そう理解するのが、現場で大切にしている視点です。家族のせいでも、本人の人間性でもありません。


なぜ怒りっぽくなるのか|5つの主な原因

原因が分かると、対応のしかたも変わってきます。怒りが起きる背景には、いくつかのパターンがあります。

脳の変化|感情を調整する働きの低下

認知症では、脳の神経細胞が少しずつダメージを受けていきます。そのなかで、感情や行動を調整する働き(前頭葉などが関わる部分)が低下すると、些細なことで怒りが抑えにくくなることがあります。

「ちょっと前ならスルーできていたことで、激しく怒る」というのは、この影響と考えられます。とくに前頭側頭型認知症と呼ばれるタイプでは、こうした「抑えがきかない」傾向が目立ちやすいことが知られています。いずれも、本人が怒りたくて怒っているのではなく、ブレーキがかけにくくなっている状態です。

身体の不調|痛み・便秘・脱水

意外と見落とされがちですが、身体の不調が怒りのきっかけになることは非常に多いです。関節の痛み、便秘、脱水、発熱、尿路感染——こうした体の問題は、うまく言葉で伝えられない分、興奮や怒りとして出てくることがあります。

私が現場で関わってきたなかでも、「なぜか毎朝怒りっぽい」という方が、便秘の解消をきっかけに落ち着かれたことがありました。怒りが増したときは、まず身体の状態を確認するのが大切です。

薬の影響

認知症の治療薬や、睡眠・精神に関わる薬のなかには、まれに開始・増量のあとに興奮・不眠・混乱などが目立つことがあります。「薬を変えてから様子が変わった」と感じる場合は、自己判断で中止したり量を変えたりせず、処方した医師に相談してください。判断するのは専門家の役割です。

環境・生活リズムの乱れ

慣れない場所、騒がしい環境、急な予定の変更。こうした刺激が重なると、混乱から興奮につながることがあります。特に夕方になると落ち着きがなくなり、怒りやすくなる方は少なくありません。

これは「夕暮れ症候群」とも呼ばれ、夕方から夜にかけて不安や興奮が強まる現象です。日中の活動量や照明、生活リズムが関係していると考えられています。詳しくはこちら → 夕暮れ症候群とは?夕方に不穏になる原因と対応法

本人なりの理由|誤解・妄想・プライドの傷つき

認知症の症状として、実際には起きていないことを信じてしまう「妄想」が現れることがあります。「財布を盗まれた」「配偶者が浮気をしている」といった内容が多く、そこから怒りに発展するパターンです。

なかでも配偶者への嫉妬心が妄想として現れる「嫉妬妄想」は、在宅介護でよく見られ、対応に悩む方が多いテーマです。詳しくはこちら → 認知症の嫉妬妄想|原因と家族の対応法

また、「できていたことができなくなった」という喪失感やプライドの傷つきが、怒りとして表れることもあります。これは、本人が自分の変化に気づいているからこその反応でもあります。


ついやってしまいがちな対応と、その理由

「怒らせたくない」と思っているのに、無意識にやってしまうことがあります。どれもしてしまうのは無理もないことです。でも、結果として逆効果になりやすいパターンを、現場の経験からお伝えします。

叱る・否定する・正そうとする

「そんなことはないでしょ」「さっき食べたじゃない」と正しいことを伝えても、本人にはなかなか届きません。記憶や理解がうまくつながらない状態では、正確な情報よりも、感情的な反発のほうが先に立ってしまいます。

正論は、ときに怒りの火に油を注ぎます。現場では「正しさより、安心感」を優先することを学びました。

力で抑える・大声を出す

身体を強く押さえたり、大声で制止しようとすると、本人はさらに恐怖や怒りを感じます。出来事の細部は忘れても、「嫌だった」「怖かった」という感覚だけが残るように見えることがあり、次の関わりがますます難しくなる悪循環にもつながりかねません。

「なぜ怒っているのか」を問い詰める

「どうして怒るの?」と理由を聞いても、本人は答えられないことが多いです。自分の気持ちの理由を言葉にするのが難しくなっているためです。問い詰めると、かえって混乱させてしまいます。


今日から試せる対応の工夫

「では、どうすればいいのか」——完璧な正解はありませんが、現場で手応えを感じてきた工夫をご紹介します。どれも、うまくいかない日があって当然です。

まず身体の不調を確認する

怒りが増したとき、最初に確認したいのは体の状態です。

言葉で訴えられない不快感が、怒りとして出ていることは多いものです。身体面を整えると、落ち着きにつながる場合があります。

怒りのトリガーを記録する|気づきメモ

「いつ、どこで、どんなきっかけで怒りが起きたか」を簡単にメモしておくと、パターンが見えてきます。

例えば「入浴のときだけ怒る」「夕方5時以降に多い」「特定の話題で必ず興奮する」——パターンが分かれば、先回りの対応がしやすくなります。細かく書く必要はありません。スマホのメモでも手帳でも十分です。このメモは、後で専門家に相談するときにも役立ちます。

否定せず、感情を受け止める声かけ

本人の言葉が正しくなくても、まず気持ちの部分に寄り添う声かけが有効です。

事実の訂正よりも、「この人は私の気持ちを分かってくれている」という安心感を届けることを優先します。声かけのフレーズをもっと知りたい方はこちら → 認知症介護で使える声かけフレーズ50選

その場をいったん離れる|「場を変える」

怒りが高まっているときは、同じ場所で対応し続けないことも選択肢のひとつです。

「少しお茶を持ってきますね」と言って部屋を出る、別のものに関心を向けて話題を変える——場所や話題が変わると、怒りが弱まることがあります。「逃げる」のではなく、「場を整え直す」という感覚です。

環境を整える・刺激を減らす

テレビの音、複数の人が同時に話す環境、急な訪問者——こうした刺激が重なると、混乱からの怒りにつながりやすくなります。生活環境をできるだけシンプルにし、変化を少なくしておくことが助けになります。夕方以降は照明を整え、日中はなるべく体を動かして生活リズムをつくることも、一つの工夫です。


こんなときは医療機関・専門家に相談を

工夫しても落ち着かない、あるいは急に状態が変わった場合は、専門家に相談するタイミングです。

受診・相談の目安

以下のような状況は、早めに相談することをおすすめします。

専門医や学会のガイドラインでも、認知症に伴う行動・気持ちの変化への対応は、まず関わり方や環境を整える方法が第一に推奨されています(2025年に改訂された専門家向けのガイドラインでも、同じ方針が示されています)。薬を使うかどうかは、専門医が慎重に判断するものです。

身の危険を感じたときは、ためらわず離れて

もし暴力で身の危険を感じるときは、いったん別の部屋に移って距離をとってください。ご自身や誰かがケガをしそうなときに、その場から離れることは「正しい判断」です。手に負えないと感じたら、緊急時には迷わず119番や警察に連絡してかまいません。一人で抱え込み、我慢し続ける必要はありません。

相談窓口

地域包括支援センターは、介護に関するあらゆる相談を無料で受け付けている身近な窓口です。「何をどう相談すればいいか分からない」という状態でも対応してもらえます。相談の際は、**「いつから怒りが増えたか」「薬の変更があったか」「睡眠・食事・水分・排泄の様子」「暴力の有無」**などをメモして伝えると、話がスムーズに進みます。

かかりつけ医への相談も大切です。身体の不調が怒りの原因になっていることもあるため、行動の変化を具体的に伝えてみてください。

また、認知症の人と家族の会https://www.alzheimer.or.jp/)は、同じ立場で介護している方々と気持ちを共有できる場です。全国に支部があり、電話相談も行っています。


介護者自身を守ることも、大切なケアです

「怒られ続ける」消耗を認めてください

怒りを向けられ続ける日々は、心身ともにすり減らします。「家族だから受け止めなければ」と、自分を追い込まないでほしいのです。

在宅での介護は、身体的にも精神的にも大きな負担がかかります。あなたが疲れているのは、当然のことです。疲れを認めることは、ケアを続けるための第一歩になります。

一人で抱えない・レスパイトを使う

デイサービスやショートステイは、「本人を預ける」だけでなく、介護者が休むための制度でもあります。遠慮せず使っていいものです。

休むことは、介護を諦めることではありません。休んだほうが、長く、穏やかに関わり続けられます。介護に疲れを感じている方はこちらも → 介護に疲れたと感じたら読んでほしい記事

現場の経験から、ひと言

看護師・介護福祉士として現場に立っていたころ、何度も思ったことがあります。「この怒りは、この人の本当の姿ではない」と。穏やかなときの表情、好きだったもの、誇りにしていたこと——それを知っている家族だからこそ、怒りの言葉は深く刺さります。あなたが消耗しているのは、それだけ深く向き合ってきた証でもあります。どうか、ご自身のこともいたわってあげてください。


まとめ|怒りの裏にある「伝えたいこと」を想像してみてください

認知症の方の怒りは、症状のひとつです。あなたのせいでも、本人の性格でもありません。

今日から意識できる3つのポイントをお伝えして、締めくくります。

  1. 身体の不調を確認する(痛み・便秘・脱水・発熱がないかを最初に見る)
  2. 感情を受け止める声かけをする(正しさより、安心感を届ける)
  3. 場をいったん変える(その場で解決しようとせず、距離をとる)

どれも、完璧にできなくていいです。「今日はひとつ試してみよう」くらいの気持ちで十分です。

状態が急変した、対応が難しい、限界を感じている——そんなときは、地域包括支援センターやかかりつけ医に相談してください。一人で抱え込む必要はありません。

介護に正解はありません。でも、原因を知り、視点を少し変えることは、助けになることがあります。怒りの裏に「伝えたいこと」があると想像できると、ほんの少し、気持ちが楽になるかもしれません。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。もし今、対応に悩んでいるなら、この記事のメモのとり方を参考に、一度お近くの地域包括支援センターに話してみてください。同じように悩んでいる方に、この記事が届けば嬉しいです。


著者:宮田浩行
看護師・介護福祉士。医療・介護の現場で計15年以上のキャリアを持つ医療ライター。在宅介護、認知症ケア、訪問看護の現場経験をもとに、家族が知っておきたい医療・介護の情報を発信しています。

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