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認知症ケア

認知症で叩かれる・蹴られる|手が出る理由と対応を看護師が解説

公開: 2026年6月19日

認知症で叩かれる・蹴られる|手が出る理由と対応を看護師が解説
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

「また叩かれてしまった。私の介護が悪いのかな…」

そう思いながら、毎日ケアを続けていませんか。

あなたは悪くありません。
手が出るのは、認知症という脳の病気を背景に、体調・環境・関わり方などが重なって起こる症状です。あなたの介護の仕方そのものが原因では、多くの場合ありません。

この記事では、まず「叩かれたその場で取るべき安全確保」からお伝えし、そのあとで手が出る理由・対応の工夫・相談先を順に説明します。

先に、3つだけ。


まず、叩かれた「その場」で安全を確保してください

対応の工夫よりも先に、いちばん大切なことをお伝えします。あなた自身の安全です。

手が出ている最中に、無理にケアを続ける必要はありません。次のことを、ためらわずにしてください。

「今やらなければ」と思っても、入浴も着替えも、後回しにして構いません。あなたが安全でいることが最優先です。

そして、次のような切迫した状況では、迷わず外部の力を借りてください。


認知症で「手が出る」のは、あなたへの攻撃ではありません

落ち着いて読める状況になったら、なぜ手が出るのかを一緒に整理していきましょう。

認知症の方が叩いたり蹴ったりする行動は、医学的には BPSD(認知症の行動・心理症状) のひとつとして説明されます。「暴力をふるう人」になったわけではなく、脳の病気を土台に、痛みや不安、周囲の環境、関わり方などが重なって表れる症状です。

BPSDとは、もの忘れなどの「中核症状」とは別に現れる、行動・心理面の症状の総称です。興奮、いらだち、不安、幻覚などが含まれます。

そしてこれは、決して珍しいことではありません。東京慈恵会医科大学の品川俊一郎医師らが在宅で暮らすアルツハイマー型認知症の方を介護する家族705人に行った調査では、在宅のアルツハイマー型認知症の方の90.6%に何らかのBPSDがみられ、73.4%に焦燥やいらだちなどの「過活動」症状がみられたと報告されています(Psychogeriatrics, 2025)。

つまり、「うちだけが大変なのかな」と感じているとしたら、そうではありません。それほど多くの家族が、同じ状況に向き合っています。


なぜ「一番近くにいる家族」に手が出やすいのか

「施設のスタッフには穏やかなのに、私にだけ手が出る」という話は、現場でもとてもよく聞きます。

これには、いくつかの理由が重なっていると考えられています。

ひとつは、認知症になると、何をされたかは忘れても、その場で感じた「不安」「怖い」といった気持ちの余韻は残りやすいといわれること。もうひとつは、毎日ケアをする家族ほど接触する機会が多く、それだけ反応が向きやすいことです。

排泄の介助、入浴の介助、着替えの介助——そのたびに「誰かに身体を触られる」体験が繰り返されます。状況がうまく理解できないと、それは「助けてもらっている」ではなく、**「知らない人に急に触られる怖さ」や「自分のことが自分でできない悔しさ」**として感じられてしまうことがあります。

だから、一番近くにいる家族に反応が出やすい。これは、家族のケアが「悪い」からではなく、最も多く関わり、いちばん頼りにされているからこそ起きることでもあります。

「毒を盛られている」といった被毒妄想が背景にある場合は、被毒妄想への対応もあわせてご覧ください。


手が出やすい「引き金」を知っておく

認知症の方が攻撃的になりやすい場面には、ある程度のパターンがあります。引き金がわかると、先に手を打ちやすくなります。

ケア中の「触れる場面」

入浴・排泄・着替えの介助は、特に手が出やすい場面です。突然触れられる、人に見られたくない部分に触れられる——これが恐怖や抵抗感の引き金になりやすいのです。

声かけなしに触れることは、避けてみてください。「これから背中を拭きますね」と伝えてから、ゆっくり触れる。それだけで反応が変わることがあります。

体の不調(痛み・便秘・感染症)

「最近、急に攻撃的になった」と感じるとき、体の不調が隠れていることがあります。

痛みがあっても「痛い」と言葉で伝えられない場合、それが手を出す行動として表れることがあります。便秘や尿路感染症などでも、いらだちや興奮が強まることが知られています。

体温、排便の状況、食事・水分の量を確認してみてください。

急な悪化は「せん妄」を疑う

これまでと比べて「ここ数日で急に」症状が悪化したときは、せん妄(急性の意識の混乱)や体の病気の可能性を考えてください。せん妄は、脱水・感染症・薬の影響などをきっかけに起こります。

この場合の対応は、後ほど「受診・救急のサイン」で詳しくお伝えします。暴言が中心の場合は、認知症の暴言への対応も参考になります。


現場で見てきた、対応の工夫

看護師・介護福祉士として15年以上、認知症ケアの現場に関わってきました。そのなかで感じてきたことを、いくつかお伝えします。

正面から近づくと、急に視界へ人が入って防衛反応が起きやすいと感じています。相手の視界に入る「斜め前」から、声をかけながら近づくことで、反応が穏やかになるケースは少なくありませんでした。逆に、背後や真横から急に近づくのは、驚かせてしまい逆効果になりやすいので避けたほうが安全です。

また、こちらが焦っているときほど、相手も落ち着かなくなります。「早く済ませなければ」という気持ちは、不思議と伝わってしまうものです。ケアの「速さ」よりも「静かさ」を意識すると、結果的に短く終わることがあります。

もちろん、これがすべての方に当てはまるわけではありません。合わなければ、別の方法を探してみてください。うまくいかない日があっても、あなたのせいではありません。


「ABCメモ」で引き金を探す

同じケアでも、手が出る日とそうでない日がある——そんなとき、ちょっとした記録が手がかりになります。

介護の現場でも使われる「ABCメモ」という方法があります。

項目内容
A(前のできごと)手が出る直前に何があったか「排泄介助の途中で、声かけなしに触れた」
B(行動)どんな行動が起きたか「右腕をつかまれた」
C(その後)そのあとどうなったか「介助を中断したら落ち着いた」

数日分たまると、「このケアのときに起きやすい」「この時間帯に多い」といったパターンが見えてきます。

ただし、**しっかり書こうとしなくて大丈夫です。**スマホのメモに一言だけ、書けない日は飛ばして構いません。ケアマネジャーや専門職に相談するときに、この一言メモが役立ちます。


受診・救急のサイン|薬は「最後の手段」とは限らない

「いつもと違う」急な悪化は、早めに相談を

次のようなときは、できるだけ早く専門職に相談してください。

まずはかかりつけ医に早めに連絡するのが基本です。そのうえで、意識がもうろうとしている・転倒して頭を打った・急に手足が動かしにくいといったときは、救急(119番や #7119)も検討してください。「認知症の悪化」と思っていたものが、治療できる体の病気のサインであることは珍しくありません。

受診のタイミング全般については、認知症の初期症状と受診のタイミングもあわせてご覧ください。

薬の前に、まず環境とケアの見直しを

2025年6月に6つの学会(日本認知症学会・日本老年精神医学会など)が共同で監修した「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」では、BPSDへの対応として、まず非薬物的な対応(環境の調整・関わり方の工夫など)を第一に行うことが示されています。

薬は、本人やまわりに危険が及ぶような場合に、医師の判断で使う選択肢のひとつです。ただし眠気やふらつきといった影響が出ることもあり、効果と様子を見ながら見直していくものです。薬で抑え込む話ではないこと、そして使うかどうかは必ず主治医と相談することを、覚えておいてください。

受診のときは、「いつから・どんな場面で・何が引き金になりやすいか」をメモして持っていくと、診察がスムーズです。


一人で抱えないで|相談窓口とサービス {#一人で抱えないで相談窓口とサービス}

「限界を感じる」のは、正常な反応です

ここで、どうしても伝えたいことがあります。

「認知症だから仕方ない」「叩かれても我慢するのが介護」——そう思い続けて、自分を後回しにしていませんか。

2022年にノルウェーで行われた調査(BMC Geriatrics)では、在宅で認知症の方を介護する人のうち、一定数が家族からの身体的な暴力を経験していたと報告されています。これは「介護者を責める」数字ではありません。それだけ多くの人が、限界の近くで踏ん張っているという事実を示しているだけです。

**限界を感じるのは、あなたが弱いからではありません。**追い詰められる前に、誰かに話してください。あなたが安全で穏やかでいられることは、あなた自身のためにも、認知症の方にとっても大切なことです。

介護そのものに疲れているときは、介護疲れを感じたら読んでほしい記事もご覧ください。

介護の量を減らす——レスパイト(休息)という考え方

「相談」と聞くと身構えるかもしれませんが、まず使ってほしいのは介護の量そのものを減らす仕組みです。

これらはケアマネジャーに相談すれば調整してもらえます。「離れる時間をつくる」ことは、逃げでも甘えでもなく、介護を続けるための正しい工夫です。

相談できる窓口(日中・夜間・緊急で使い分け)

日中の相談(平日昼間)

つらい気持ちが強いとき(夜間・休日も)

いますぐ危ないとき


まず「これひとつだけ」試してみてください

対応法をたくさん書いてきましたが、いきなり全部変える必要はありません。

まず1つだけ、「ケアの前に声をかけてから触れる」を試してみてください。

「〇〇さん、今から〇〇しますね」と伝えてから、視界に入る斜め前から、ゆっくり近づく。たったそれだけです。すべての場面で効くわけではありませんが、反応が和らぐことがあります。

うまくいかなくても、あなたのせいではありません。次の方法を、ケアマネや専門職と一緒に考えていきましょう。


まとめ


次のステップ

今日できる小さな一歩として、担当ケアマネジャーか地域包括支援センターに、今週の状況を話してみてください。「叩かれてつらい」とだけ伝えれば十分です。そこから、デイサービスやショートステイなど、あなたの負担を減らす方法を一緒に考えてもらえます。

電話する気力も出ないほど追い詰められているときは、よりそいホットライン(0120-279-338・24時間)に、ただ話を聞いてもらうだけでも構いません。一人で抱えないでください。


参考文献

  1. Shinagawa S, et al. (2025). Family caregiver burden, neuropsychiatric symptoms, and care service use in Japanese community-dwelling people with Alzheimer’s disease. Psychogeriatrics. doi:10.1111/psyg.70143 [在宅アルツハイマー型認知症の方の90.6%にBPSD・73.4%に過活動症状] PMC
  2. Steinsheim G, Saga S, Olsen B, Broen HK, Malmedal W. (2022). Abusive episodes among home-dwelling persons with dementia and their informal caregivers: a cross-sectional Norwegian study. BMC Geriatrics, 22:873. PubMed
  3. 日本認知症学会・日本老年精神医学会ほか6学会共同監修(2025年6月)「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」 日本認知症学会

免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。記事内容は執筆時点の情報に基づいています。


執筆者:宮田浩行
看護師・介護福祉士。看護師8年・介護福祉士7年、計15年の医療・介護現場経験をもとに、家族介護者向けの情報を発信しています。現在は医療ライター・AI講師としても活動中。
X: @miyata8hiroyuki

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