「あせもかな、それともおむつかぶれ?」「絆創膏をはがしたら皮膚まで裂けてしまった」――夏になると、こうした肌トラブルに戸惑うご家族は少なくありません。高齢者の肌は、加齢で薄く乾燥しやすい一方、汗やおむつの中は蒸れやすいという、一見矛盾した状態にさらされています。この記事では、看護師8年・介護福祉士7年、訪問看護に5年携わった経験をもとに、あせも・おむつかぶれ・スキンテアがなぜ夏に増えるのか、見分け方の目安、やってはいけない対応、今日からできる予防と対処、受診の目安までをやさしく解説します。
なぜ夏に高齢者の皮膚トラブルが増えるのか
加齢による皮膚の変化――薄く、傷つきやすくなる
歳を重ねると、皮膚は少しずつ薄く、乾燥しやすくなっていきます。表皮と真皮の厚みが減り、外部の刺激から体を守るバリア機能も低下していくためです。こうした薄く傷つきやすい状態を、看護の現場では「ティッシュペーパーのような肌」と表現することがあります。少しの摩擦や引っ張りでも、皮膚が裂けてしまうことがあるからです。
このような皮膚の裂傷は「スキンテア」と呼ばれ、前腕や下腿(すねのあたり)に起こりやすいとされています。絆創膏をはがすとき、車椅子やベッド柵に軽くぶつけたとき――日常のちょっとした動作がきっかけになることも少なくありません。日本創傷・オストミー・失禁管理学会が2014年に行った全国実態調査をもとにした報告では、75歳以上の方の約1.7%にスキンテアが確認されたとされています。数字として多くはありませんが、いったん起こると治りにくいため、予防がなにより大切な傷です。
汗と排泄物による「蒸れ」――あせも・おむつかぶれの土壌
一方で、夏は「蒸れ」のリスクも高まります。汗が皮膚にこもると、汗の通り道(汗管)がつまり、「あせも(汗疹)」ができやすくなります。あせもは子どもの病気と思われがちですが、自分で衣類の調整や寝返りがしにくい大人(高齢者)にも起こります。
また、おむつを使用している方は、尿や便が皮膚に長く触れることで「おむつかぶれ」が起こりやすくなります。このうち尿や便の刺激で起こるものは、医学的に「失禁関連皮膚炎(IAD)」と呼ばれることがあります。学会がまとめた資料によると、60歳以上の方の尿失禁は50%以上、65歳以上の便失禁は男性8.7%、女性6.6%と報告されており、加齢によって排泄のコントロールが難しくなること自体は、決して珍しいことではありません。ある一つの施設の調査では、IADのある方の割合が約17%にのぼったという報告もあります(1施設での調査であり、在宅の高齢者全体の割合ではありません)。
あせも・おむつかぶれ・スキンテアの見分け方(目安)
| トラブル | 主なきっかけ | よくある見た目・場所 |
|---|---|---|
| あせも | 汗・蒸れ | 赤い小さなブツブツ。首まわり・背中・わき・ひじの内側など |
| おむつかぶれ(IAD) | 尿・便の刺激 | 赤み・ただれ・ヒリヒリした痛み。おしり〜太ももの付け根 |
| スキンテア | 摩擦・引っ張り | 皮膚が裂ける・めくれる。腕やすねに多い |
※あくまで目安です。実際には複数が重なることや、カンジダなどの皮膚感染症、床ずれ(褥瘡)が混ざっていることもあります。判断に迷うときは、自己判断せず訪問看護師や主治医に相談してください。
良かれと思ったエアコン我慢が悪循環を生む
「電気代がもったいないから」「クーラーは体に毒だから」と、エアコンの使用をためらう高齢者は少なくありません。しかし室温が高い状態が続くと汗の量が増え、皮膚が蒸れる時間も長くなり、あせもやおむつかぶれの悪化要因になり得ます。
厚生労働省の資料によると、熱中症による救急搬送者のおよそ半数を65歳以上の高齢者が占めています。エアコンを我慢する背景には長年の生活習慣や価値観があり、それ自体を責めることはできません。ただ、暑さの我慢は熱中症のリスクに加えて、肌への負担にもつながりうる、ということは知っておいていただきたい点です。エアコンを嫌がるご家族への声かけの工夫は、高齢者がエアコンをつけない理由と夜間熱中症の防ぎ方でも詳しく解説しています。
やってはいけない3つのNG対応
在宅介護の現場では、「よかれと思って」やってしまいがちなNG対応があります。ここでは代表的な3つを、代わりの方法とセットで紹介します。
パウダーの厚塗り・重ね付け
汗や蒸れが気になるからと、粉状の製品を厚く塗り重ねてしまうことがあります。お気持ちはとてもよく分かります。ただ、パウダーは汗や排泄物と混ざると固まりやすく、かえって摩擦や毛穴の詰まりを招くことがあるといわれています。
代わりに: 清潔・保湿・保護の基本ケア(次の章で解説します)ができていれば、パウダーに頼る必要は基本的にありません。ただれや傷がある部分、湿った皮膚、おむつの中には自己判断で使わず、使いたい場合は訪問看護師や薬剤師など身近な専門職に確認してみてください。
アルコール綿・ゴシゴシ拭き
汗や汚れをしっかり落とそうと、アルコール綿でゴシゴシ拭いてしまうケースもよく見られます。しかし、加齢で薄くなった皮膚にとって強い摩擦はバリア機能を壊す原因になりやすく、スキンテアの引き金になることもあります。
代わりに: 「きれいにする」ことよりも**「こすらない」こと**を優先してください。具体的な洗い方は次の章で紹介します。
おむつを重ねる・厚く当てる
漏れを心配して、おむつを重ねて使ったり、パッドを厚く当てたりする方も少なくありません。しかし、おむつを重ねると通気性が悪くなり、かえって蒸れや締め付け、摩擦が増えてしまうことがあります。
代わりに: 大切なのは「厚くする」ことよりも**「こまめに替える」こと**です。
今日からできる予防と対処の工夫
清潔――こすらず「泡で洗う」
皮膚を清潔に保つときは、弱酸性の洗浄剤をよく泡立て、泡でやさしく押さえるように洗うことを意識してみてください。こすらなくても、泡の力で汚れは落ちやすくなります。
排泄のあとの陰部やおしりは、拭くだけでは刺激になる成分が皮膚に残ることがあります。ぬるま湯で洗い流す→洗浄剤を残さない→タオルで押さえて乾かす、の流れが基本です。入浴が難しい日は、蒸しタオルなどで押さえるように拭く「清拭」でも構いません。入浴そのものを嫌がる方への対応については、認知症の方がお風呂を嫌がるときの対応もあわせてご覧ください。
保湿――洗浄後すぐ、手のひらで押さえるように塗る
洗浄したあとの皮膚は乾燥しやすい状態になっています。タオルで押さえるように水分を拭き取ったら、なるべく早く保湿剤を塗ることを習慣にしてみてください。塗るときもこすらず、手のひらで押さえるようにすると、皮膚への負担を減らしやすくなります。
寝具・衣類――通気性を意識する
寝具や衣類も、蒸れの環境に影響します。吸湿性のよいシーツやパジャマを選び、こまめに交換することで、蒸れを軽減しやすくなります。長時間の同じ姿勢による皮膚トラブルが気になる方は、床ずれを家で防ぐ方法も参考にしてみてください。
おむつ交換――「厚く」より「こまめに」
おむつケアの基本は、「洗浄・保湿・保護」の3ステップと、排泄物が皮膚に触れている時間をできるだけ短くすることです。特に便のあとは皮膚への刺激が強くなりやすいため、気づいたらできるだけ早く交換することが望ましいとされています。
撥水性の保護クリームで皮膚を守るという考え方もあります。ただし、前に塗った保護剤を無理にこすり落とす必要はありませんし、塗りすぎがかえって刺激になることもあります。量や頻度に迷ったら、訪問看護師などの専門職に確認すると安心です。
スキンテア(皮膚裂傷)ができてしまったら
万が一、皮膚が裂けたりめくれたりしてしまったときは、慌てずに次の対応を意識してください。
- 清潔なガーゼで押さえて止血する(こすらない)
- めくれた皮膚は取り除かず、元の位置にそっと戻す
- ガーゼなどでやさしく保護し、テープを皮膚に直接貼らない
- 出血が止まらない、傷が深い、皮膚が戻せないときは、その日のうちに受診・相談する
受診・訪問看護に相談すべき目安
その日のうちに相談すべきサイン
軽い赤みであれば、清潔と保湿、おむつ交換の工夫で少しずつ落ち着いていくことも少なくありません。ただし、次のような様子が見られたら、様子を見ずにその日のうちに相談する目安と考えてください。皮膚の感染症(蜂窩織炎など)が隠れている可能性もあります。
- 発赤が急速に広がっている
- 38℃以上の発熱がある
- 強い痛み、熱っぽさ、腫れがある
- 出血や、膿のような浸出液が出ている
- 水ぶくれや、黒っぽい変色がある
- 傷やただれから、いつもと違う悪臭がする
また、糖尿病のある方やステロイドを内服中の方などは悪化しやすいため、軽く見えても早めの相談をおすすめします。**市販薬を塗っても良くならないのに、自己判断で塗り続けることも避けてください。**原因(あせも・かぶれ・感染症)によって適した対応は異なります。
脱水のサインも一緒に見る
夏場の皮膚トラブルは、脱水や熱中症のサインと重なって現れることもあります。皮膚だけでなく、水分の摂り方や体調全体にも目を向けてみてください。かくれ脱水・かくれ熱中症のチェック法については、高齢者の脱水・かくれ熱中症の見分け方で詳しく解説しています。
相談先の使い分け
相談先に迷ったときは、緊急度によって使い分けるとよいでしょう。
- 急を要さない相談・サービス調整: ケアマネジャー
- 皮膚の状態の判断・ケア方法: 訪問看護師(利用中の場合)、主治医、皮膚科
- 夜間・休日に受診を迷うとき: 救急安心センター事業(#7119)や自治体の救急相談窓口
介護者の心のケア
「自分のケアが悪かったのでは」と思わなくていい理由
家族の肌にあせもやおむつかぶれ、スキンテアができると、「自分のお世話が足りなかったのでは」と自分を責めてしまう方は少なくありません。しかし、これまでお伝えしてきた通り、加齢による皮膚の変化そのものが大きな要因であり、どれだけ丁寧にケアをしていても起こりうることです。どうか、必要以上にご自分を責めないでください。
現場での実感
※個人が特定されないよう、複数の事例をもとに再構成しています。
訪問看護に携わっていたころ、夏場のあせもを心配して、よかれと思ってパウダーを毎日たっぷりと塗り重ねていたご家族に出会ったことがあります。訪問先では、こうした「よかれと思って」の積み重ねに本当によく出会いました。
そのご家庭では、パウダーが汗と混ざって固まり、かえって皮膚に摩擦が起きてしまっている状態でした。私はまず「これまでしっかり気にかけてこられたんですね」とお伝えした上で、「洗ったあとの保湿を先にしてみましょうか」と、やり方を一緒に見直すご提案をしました。ご家族は驚いた様子でしたが、「知らなかった、教えてくれてありがとう」とおっしゃっていたのが印象に残っています。悪気があってやっていることは、まずありません。だからこそ、責めるのではなく、一緒にやり方を見直していくことが大切だと感じています。
まとめ
高齢者の夏の肌トラブルは、加齢による皮膚の変化と、汗やおむつによる蒸れが重なって起こりやすくなります。今日から始められることとして、次の3つを意識してみてください。
- こすらず、泡で洗う
- 洗浄後はすぐに保湿する
- おむつは「厚くより、こまめに」交換する
そして、発赤の急な広がりや発熱、強い痛み、出血、悪臭といったサインが見られたら、早めに相談することが安心につながります。
次のステップ
今日のおむつ交換や着替えのとき、一度だけ、ご家族の肌を「見る」「触れる」時間を作ってみてください。清潔な手で、こすらず、痛がる場所は無理に触らない――それだけで、変化に気づく確かな一歩になります。