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退院後すぐ家族がやるべき3つの準備【訪問看護師が解説】

公開: 2026年5月31日

退院後すぐ家族がやるべき3つの準備【訪問看護師が解説】

退院が決まった瞬間、「やっと帰ってこられる」とほっとしたのも束の間、気づけば不安のほうが大きくなっていませんか。

「薬の管理はどうすればいい?」「夜中に急変したら?」「介護保険って何から始めればいいの?」——そういった声を、私は現場で何度も聞いてきました。

この記事では、看護師・介護福祉士として15年間、退院直後の在宅療養に関わってきた経験をもとに、家族がやっておくと安心な3つの準備を整理しました。制度の話も出てきますが、できるだけ噛み砕いて説明します。難しいところは「誰に聞けばいい」という道案内も添えますので、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


退院後の現実——帰ってきただけでは危ない理由

厚労省の令和5年患者調査によると、病院全体の平均在院日数は29.3日です。ただしこれは療養病床なども含めた数字で、急性期の病棟ではもっと短くなります。2024年度の診療報酬改定では、急性期病棟(急性期一般入院料1)の在院日数の基準が16日以内に短縮されました。医療の現場では、患者さんが「十分に回復した」と感じる前に退院を迎えるケースが増えています。

退院直後は、体調を崩しやすい時期でもあります。在宅医療を受ける高齢の患者さんを対象にした研究(日本老年医学会誌 2018年、J-STAGE)では、退院後30日以内に再入院となる割合が**11.2%**と報告されています。対象が限られたデータではありますが、「退院したから安心」とは言い切れない時期があることを示しています。

在宅ケアの現場では、退院直後の数日間を**「魔の72時間」**と呼ぶことがあります。学術的に確立された言葉ではありませんが、環境の変化によるせん妄(急激な混乱状態)、服薬の混乱、誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ること)などが重なりやすい時期だという、現場の実感を表した言葉です。

私が訪問看護師として退院当日にご自宅へ伺うと、ご家族が玄関先で固まっていることがよくあります。「何から手をつければいいかわからなくて」と言葉に詰まる姿を見るたびに、もう少し早い段階から準備を始めていればと感じてきました。

では、具体的に何を準備すればよいのでしょうか。


準備① 退院前カンファレンスに参加する

退院前カンファレンスとは

退院前カンファレンスとは、退院の直前に病院が開く多職種合同の情報共有の場です。担当医・病棟看護師・理学療法士・医療ソーシャルワーカー(MSW)などが集まり、自宅での療養方針を話し合います。

「家族は参加してよいの?」と聞かれることがありますが、在宅で介護を担うご家族は、参加できる場合が多い会議です。開催のお知らせが来たら、できる限り出席することをおすすめします。仕事や遠方などで難しいときは、電話やオンラインでの参加、書面での情報共有をお願いできないか相談してみてください。

なお、カンファレンス(病院によって「退院時共同指導」「退院支援面談」など呼び名はさまざまです)は、必ずしもすべての患者さんに開かれるわけではありません。お知らせが来ない場合は、病棟の看護師か医療ソーシャルワーカー(MSW)に「退院前に家族が話を聞ける場を作ってほしい」と申し出てよいのです。

家族が確認しておきたい3点

カンファレンスでは、次の3点を必ず確認しておくと安心です。

  1. 日常生活の制限事項 ——「入浴は週何回まで可能か」「食事形態の制限はあるか」「歩行時は見守りが必要か」など
  2. 服薬の変更点 ——入院前と退院後では、薬の種類・量・飲むタイミングが変わっていることがよくあります。退院時に処方薬の一覧(お薬手帳)を必ず受け取りましょう
  3. 次の受診日と担当科 ——退院後の外来予約が入っているか、どの科に行けばよいかを確認します

聞き取りが多く、その場で全部理解できなくても大丈夫です。メモを取る係と質問する係に分かれると、家族2人以上で参加する場合はスムーズです。

緊急時の連絡フローは書面でもらう

「夜中に急変したらどこに電話すればいいか」を、退院前にはっきり確認しておきましょう。

病院の担当看護師、かかりつけ医、訪問看護ステーション——それぞれの連絡先と「どういう状態のときに電話するか」の目安を、書面で手元に残しておくと いざというときに慌てずに済みます。病院側に「緊急時の連絡フローを紙でいただけますか」と遠慮なく申し出てください。


準備② 介護保険・訪問看護の手続きを入院中に始める

申請は退院を待たなくていい

介護保険の要介護認定は、入院中から申請できます。申請してから認定が出るまで、一般的に約1か月かかります(自治体によって異なります)。退院後に申請を始めると、在宅サービスを使えるようになるまでの間に空白期間が生まれてしまいます。

「まだ退院していないのに申請していいのか」と思われるかもしれませんが、問題ありません。入院中でも自宅の住所がある市区町村に申請できます。

要介護認定の具体的な流れが気になる方は、要介護認定の申請と手続き完全ガイドも参考にしてみてください。

まず地域包括支援センターに電話する

「どこに相談すればいいかわからない」という方は、まず地域包括支援センターに電話することをおすすめします。

地域包括支援センターは、各市区町村が設置している高齢者ケアの総合相談窓口です。介護保険の申請窓口の案内はもちろん、「まだ要介護認定を受けていないが不安」という段階でも相談に乗ってもらえます。

電話番号は、市区町村の公式ホームページや、担当地区ごとに分かれている場合は市区町村の福祉課に問い合わせると教えてもらえます。「退院を控えていて、どんな支援が使えるか相談したい」と伝えれば、担当者が丁寧に案内してくれます。

訪問看護は医療保険でも使えるケースがある

「介護保険がないと訪問看護は使えない」と思っている方がいますが、そうではありません。まだ要介護認定が出ていない段階でも、医師の指示書があれば医療保険で訪問看護を利用できます。退院直後で認定を待っている時期でも、空白を作らずにケアを始められるということです。

要介護・要支援の認定を受けた後は介護保険が原則になりますが、難病や末期がんなど特定の疾患・状態に当てはまる場合は、認定後も医療保険が優先されます。どちらの保険になるか、費用や利用回数の仕組みは状況によって変わるため、詳しくは担当のケアマネジャーや訪問看護ステーションに確認することをおすすめします。

また、訪問看護を利用するには医師の「訪問看護指示書」が必要です。この書類については 訪問看護指示書とは?もらい方・手続きの全手順 でくわしく解説していますので、あわせてご覧ください。

全国の訪問看護ステーション稼働数は17,329件(全国訪問看護事業協会 2024年4月)と過去最高を更新しています。以前よりも身近な存在になってきていますので、「うちの地域に訪問看護はない」とあきらめずに、まず相談してみてください。


準備③ 自宅の療養環境を整える

服薬管理のつまずきを防ぐ

退院直後に最も多いトラブルのひとつが服薬ミスです。退院時に処方される薬は、入院前のものとは種類も量も変わっていることが少なくありません。「これは以前からのやつだろう」と思って飲んでいたら、入院中に中止になっていた——というケースを、訪問の現場でよく見てきました。

対策として有効なのが服薬カレンダーです。朝・昼・夕・就寝前のポケットが曜日ごとに並んだシートで、薬局や100円ショップでも手に入ります。服薬の確認を視覚的にできるので、「飲んだかどうか忘れた」という混乱を減らしやすくなります。

薬の管理に不安があるときは、かかりつけ薬局に「一包化(いっぽうか)」を相談するのもひとつの手です。1回分の薬をまとめて1つの袋に入れてもらえるため、取り間違えや飲み忘れを防ぎやすくなります。一包化は薬局が処方した医師に確認をとってから行うので、まず薬局に「薬の管理が難しいので一包化をお願いしたい」と伝えてみてください(保険が適用される場合もあります)。

なお、入院前から飲んでいた残りの薬を、自己判断で再開するのは避けてください。退院時にもらう「お薬手帳」や薬の説明書を確認し、迷ったら薬剤師に相談すると安心です。

転倒・誤嚥を防ぐ部屋の見直し

入院前と退院後では、体の動き方が変わっていることがあります。歩行がふらつく、食べ物をむせやすくなっている——そういった変化に、家の中の環境が追いついていないと転倒や誤嚥のリスクが高まります。

退院前に、次の点を確認しておくと安心です。

住宅改修や福祉用具の貸し出し・購入補助については、ケアマネジャーに相談することで制度の案内を受けられます。ただし住宅改修の補助は、工事の前に申請することが原則です。よかれと思って先に工事をしてしまうと補助の対象外になることがあるため、必ずケアマネジャーや市区町村の窓口に相談してから進めてください。

一人で抱えない

厚労省の令和元年国民生活基礎調査によると、同居している主な介護者の60.8%が悩みやストレスを感じていると回答しています。また令和4年の同調査では、老老介護(65歳以上同士の介護)世帯が63.5% に達しています。

家族が介護を担うのは当たり前のことではなく、相当な負担をともなうことです。「自分が全部やらなければ」と思い込まず、使える制度は使い、周囲に頼ることを遠慮しないでください。ご本人と家族、両方が無理なく続けられる体制を作ることが、長く在宅を続ける上での鍵になります。


もしものときの備え——緊急時連絡先リストを作る

退院後の在宅療養では、急な変化が起きることがあります。そのとき「どこに電話すればいいかわからない」と時間を無駄にしないために、緊急時連絡先リストを冷蔵庫や玄関など目立つ場所に貼っておくことをおすすめします。

リストに載せておきたい連絡先の例は以下のとおりです。

相手連絡先どんなときに
救急(119)119意識がない・呼吸がおかしい・強い胸の痛み・ろれつが回らない/片側の手足が動かない・止まらない出血
救急安心センター#7119「119を呼ぶべきか迷う」とき(地域により看護師などが相談に応じてくれます)
訪問看護ステーション発熱・食事や水分が取れない・医療的ケアの不安など、急な体調変化
かかりつけ医診療時間内の体調変化、薬や受診の相談
ケアマネジャーサービス調整や介護の困りごと(急変時の連絡先ではありません)

上の表の「119」の欄に挙げたような症状は、ためらわず救急車を呼ぶ目安です。「呼んでいいか迷う」ときは、全国共通の**#7119(救急安心センター)**が頼りになります(対応エリアは地域によります)。

また、かかりつけ医が「夜間・休日は対応できない」という場合もあります。夜間の急変時にどこへ連絡するか(担当の訪問看護ステーションが24時間対応か、夜間救急の番号など)を、あらかじめ確認しておくと安心です。

なお、将来的に在宅での看取りを視野に入れているご家族には、在宅看取りで後悔しない5つのポイントも参考になるかもしれません。


まとめ——退院はゴールではなく、在宅ケアのスタート

退院後の3つの準備をあらためて整理します。

  1. 退院前カンファレンスに参加し、緊急連絡フローを書面でもらう
  2. 介護保険の申請と訪問看護の手続きを入院中から始める
  3. 服薬管理・転倒・誤嚥対策として、自宅の療養環境を整える

最後に、今日からできることをチェックリストにまとめました。

今日、電話してみる先

退院前に病院でもらっておきたい紙

退院はゴールではありません。在宅ケアのスタートラインに立ったばかりです。最初の準備を丁寧にしておくことが、その後の療養生活のなめらかさに大きく影響します。

この記事を読んで「もう少し早く知りたかった」と感じた方も、今からでも遅くありません。できることから一つずつ、進めていただけたら十分です。

私は訪問看護師として、多くのご家族と一緒に在宅ケアを乗り越えてきました。不安を抱えているのはあなただけではありません。一人で抱え込まず、周りのサポートを借りながら進んでいきましょう。


次のステップ

この記事を読んで「もっと詳しく知りたい制度がある」という方は、ぜひコメント欄に書いてみてください。一般的な情報はできる限りお答えします(個別の医療・介護の判断については、担当の専門家にご相談ください)。

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