「訪問看護に興味があるけれど、病棟経験が浅くて自信がない」「ブランクがあって復帰できるか不安」——そう感じている方は少なくありません。
実は、訪問看護は今まさに「人手が足りない」現場です。求人倍率は4.18倍(2023年度・日本看護協会調査、2025年1月公表)と、全施設平均の約2倍に達しています。未経験でも学ぶ意欲がある方を歓迎する事業所は着実に増えています。
この記事では、訪問看護とはどんな仕事なのかという基本から、未経験・ブランクでも働けるかどうか、具体的な転職ステップまでをまとめました。看護師として8年、介護福祉士としても現場に携わってきた経験をもとに、正直な視点でお伝えします。
訪問看護師とはどんな仕事か
病院の外で行うケア
訪問看護とは、看護師が利用者さんの自宅や施設に出向いて、医療ケアや生活支援を行うサービスです。病棟看護のように「患者さんがこちらに来る」のではなく、「こちらが患者さんのもとへ行く」という点が最大の特徴です。
主な業務としては、バイタルサインの確認・点滴や医療処置・服薬管理・リハビリ支援・医師との連携・療養上の相談対応などがあります。さらに、家族への介護指導や精神的なサポートも重要な役割のひとつです。1回の訪問時間は30〜90分が多く、1日に4〜8件ほどを担当するのが一般的です。
訪問看護ステーションの数は2024年4月時点で17,329か所(全国訪問看護事業協会)に達しています。2010年比でおよそ3倍。新規開設件数・廃止件数ともに過去最高を記録しており、市場が急速に動いていることがわかります。
医療保険と介護保険の2制度
訪問看護には、医療保険と介護保険の2種類の制度があります。どちらを使うかは、利用者さんの状態や年齢によって異なります。
- 医療保険:主に要介護認定を受けていない方や、特定の疾患・状態にある方が対象。医師の指示書が必要です。
- 介護保険:原則65歳以上で要介護認定を受けた方が対象。ケアプランの中に位置づけられます。
それぞれの仕組みについてはこちらの記事も参考にしてみてください。
病棟看護との働き方の違い
比較表でひと目でわかる
病棟看護師から訪問看護師への転身を考えたとき、多くの方が最初に気になるのが「働き方がどう変わるか」ではないでしょうか。主な違いをまとめました。
| 項目 | 病棟看護 | 訪問看護 |
|---|---|---|
| 勤務形態 | シフト制(日勤・夜勤・準夜など) | 日勤中心(夜勤なし事業所が多い) |
| 職場環境 | 大勢のスタッフと連携 | 1人または少人数で訪問 |
| 患者さんとの関係 | 入院中の限られた期間 | 数年単位で継続関係も |
| 医師との距離 | 院内で即相談可能 | 電話・書面での連絡が中心 |
| 判断の主体 | チームで意思決定 | 現場では自分がまず判断 |
| オンコール | 基本なし(当直は別) | 事業所により月数回〜あり |
| 直行直帰 | 基本なし | 増加傾向にある事業所あり |
「一人で判断する」はどのくらいの重圧か
訪問看護で「大変だった」という声として最も多く聞かれるのが、「一人で判断しなければならない場面がある」という点です。
病棟であれば「ちょっと先輩に確認してきます」ができます。しかし訪問先では、その場に看護師は自分一人です。利用者さんの状態変化に気づいても、即座に医師や先輩が助けに来るわけではありません。
ただし、電話で報告・相談するシステムが整っている事業所がほとんどです。「判断を一人で抱え込む」のではなく、「まず判断の糸口をつかんで、すぐ連絡する」という行動が求められます。この感覚の違いは、現場に入ってみると徐々に体に染みついていくものです。
現場コラム:病棟と在宅、いちばん違うと思ったこと
私が病棟から在宅の仕事を経験したとき、最初に戸惑ったのは「正解がない選択肢」の多さでした。病棟では処置の手順が決まっていて、それに沿えばよい。でも在宅では、その方の生活スタイルに合わせて「こうすればできる」を考え続けます。最初は不安でしたが、これがのちに「看護の面白さ」に変わりました。もし不安を感じているなら、それは感性が鋭い証拠かもしれません。
未経験でも訪問看護師になれるのか
「臨床3年以上」は法令要件ではない
「訪問看護に転職するには3年以上の病棟経験が必要」という話を耳にしたことがある方もいるかもしれません。
ただし、これは法令で定められた要件ではありません。
訪問看護師として働くために法律が求める資格は、看護師(または准看護師)の免許のみです。「3年以上」という目安は、多くの事業所が独自に定めた採用基準や業界内の慣習から来ているものです。
実際には、経験1〜2年、あるいは新卒採用を行っている事業所も存在します。事業所によって方針は大きく異なりますので、「まず経験を積んでから」と決めつけず、一度調べてみる価値はあります。
ただし、これは「経験が浅くても問題ない」という意味ではありません。訪問看護は一人で状況を判断する場面が多いぶん、経験の浅いうちは、同行訪問の期間が長めに設定され、教育体制の整った事業所を選ぶことが特に大切です。「採用されるか」だけでなく「入ったあとに育ててもらえるか」をセットで考えてください。
新卒・若手・ブランク層の受け入れ拡大
2024年4月時点で訪問看護ステーションに勤務する看護師は9万1,022人(厚労省 衛生行政報告例 令和6年)。就業看護師全体の6.7%を占め、2014年末の3.6%から10年間で倍増しました。一方で、訪問看護アクションプラン2025(看護関連3団体が策定)では2025年時点で約12万人の訪問看護師が必要とされており、目標に対して人材不足が続いています。
この背景から、未経験者・若手看護師・ブランク後の復職者を積極的に受け入れる事業所が増えています。
ブランクがある方には、都道府県のナースセンターが実施する「復職支援研修」を経てから転職するルートもあります。研修で基本的な技術を確認してから訪問看護に臨むことができるので、「感覚が戻るか不安」という方にはおすすめです。
訪問看護に向いている人・覚悟しておきたいこと
活躍しやすい人の特徴
訪問看護で長く働いている方に共通しているのは、「関係性を丁寧に作れる人」「変化に柔軟に対応できる人」という印象があります。
具体的には、次のような方が活躍しやすい傾向にあります。
- 患者さん・ご家族と長期的に関わることにやりがいを感じる
- マニュアルより「この人にとって何がベストか」を考えるのが好き
- 自分で情報を集めて判断する行動が苦にならない
- 病棟の忙しさよりも「ゆっくり関わる時間」を大切にしたい
特定の疾患・ケアが得意な方(がん終末期・小児・精神科など)にとっては、専門性を深めやすい環境でもあります。
大変な側面を正直に伝えます
訪問看護を美化しすぎるのは誠実ではないと思っています。大変な面も正直にお伝えします。
オンコール対応は多くの方が最初に心配するポイントです。待機の頻度は事業所によって大きく異なり、月数回で収まるところもあれば、待機回数が多い事業所もあります。待機手当の有無や金額(1回あたり数千円程度が一般的ですが、幅があります)も事業所ごとに違います。「オンコールが心配」という方は、求人票やホームページの情報だけで判断せず、面接や見学のときに「月の平均待機回数」「待機手当の額」「緊急で実際に呼ばれる頻度」を具体的に確認してください。
孤独感も見落としがちな課題です。訪問中は基本的に一人なので、気軽に相談できる仲間が近くにいない状況が続きます。職場のコミュニケーション文化がどうかは、事前の見学・面接で確認しておくことが重要です。
休暇の取りにくさも課題のひとつです。神奈川県が行った調査(令和5年度 看護職員就業実態調査)では、離職を検討した理由の上位に「給与等処遇」70.2%、「オンコール負担」68.8%、「休暇の取りにくさ」55.5%が挙がっています。離職率は同調査で訪問看護16.7%、病院13.9%と、訪問看護の方がやや高い傾向でした。
※これは神奈川県1県の調査結果で、全国の数値とは異なる場合があります。ただ、訪問看護の「しんどさ」が処遇・オンコール・休暇という、事業所ごとに差の出やすい部分に集中しているのは、現場の実感とも一致します。だからこそ、事業所選びが非常に重要です。
訪問看護師になる具体的なステップ
必要な資格
繰り返しになりますが、訪問看護師に法令上求められる資格は看護師(または准看護師)の免許のみです。保健師・助産師の資格があればプラスになる場面もありますが、必須ではありません。
特定行為研修の修了者は、医師の指示の範囲を広げて業務できるため、より高度なケアに携わることができます。ただし、これも入職後に少しずつ考えていけば問題ありません。
転職・求人選びのポイント
訪問看護の求人を選ぶ際に確認しておきたいのは、次の点です。
- オンコールの体制(月何回程度か、当番のローテーションはどうか)
- 同行訪問の期間(3か月〜半年が業界標準。短すぎる事業所は要注意)
- スタッフ構成と人数(少人数すぎると教育体制が薄い場合がある)
- 直行直帰の可否(自宅から直接利用者宅へ向かえるかどうか)
- 退職者の離職理由(面接で聞ける雰囲気かどうかも確認ポイント)
転職サイトや転職エージェントを活用する場合は、医療・介護系に特化したサービスを選ぶと、訪問看護ステーション独自の情報(オンコール体制・管理体制など)を比較しやすくなります。転職先の選び方については、看護師の転職先比較もご参照ください。
入職後の研修
多くの事業所では、入職直後は先輩看護師と一緒に訪問する「同行訪問」から始まります。3か月〜半年かけて段階的に独り立ちしていくのが業界の標準的な流れです。
自己学習として活用できるのが、日本訪問看護財団が提供する「訪問看護eラーニング基礎講座」です(https://www.jvnf.or.jp/kyouiku/e.html)。基礎から学び直したい方に適しています。集合研修も随時開催されています(https://www.jvnf.or.jp/kensyu.html)。
訪問看護現場でのICT活用(電子記録・スマートフォン連携など)も増加傾向にあります。詳しくは訪問看護のICT活用をどうぞ。
よくある不安Q&A
Q1. 経験1〜2年でも転職できますか?
「できない」とは言えません。経験1〜2年で採用している事業所は存在します。ただし、同行期間が長めに設定されているか、教育担当がいるかどうかを必ず確認してください。「入ってみたら一人で放置された」とならないための事業所選びが、経験の浅いうちはより重要になります。
Q2. ブランクが数年あります。復職できますか?
可能です。都道府県のナースセンター(都道府県看護協会が運営)では、無料の復職支援研修を実施しています。技術確認・医療知識の更新ができるため、「感覚が戻るか不安」という方にはまずここを利用することをおすすめします。その後に訪問看護への転職を検討しても遅くはありません。
Q3. オンコールが怖いです。避けられますか?
オンコール対応のない事業所も存在します。ただし数は限られており、都市部に集中する傾向があります。また、オンコールなしの事業所は給与設計がその分シンプルになることも多いです。「オンコールは嫌だが、絶対ゼロでないと無理」ではなく、「月何回なら許容できるか」を自分なりに考えてから求人を探すと、選択肢が広がります。
Q4. 収入は上がりますか?
一概には言えません。訪問看護ステーションの常勤看護師の平均給与総額は月額46万3,927円(令和5年度・厚労省 介護事業経営実態調査)というデータがあります。ただしこれは訪問手当・オンコール手当・処遇改善加算などを含んだ合算値です。病棟看護師の平均と比べて大きく劣るわけではありませんが、夜勤手当の代わりにオンコール手当が入っている構造だと考えるとイメージしやすいでしょう。基本給だけを比べると、病棟より低めに設定されている事業所もあります。
2024年度のトリプル改定(診療報酬+0.88%・介護報酬+1.59%・厚労省 令和6年度改定)により報酬は引き上げられましたが、給与への反映は事業所によって異なります。面接では「訪問手当・オンコール手当・処遇改善加算の詳細」を確認することをおすすめします。
Q5. 初回訪問で拒否されたらどうすればいいですか?
訪問看護では、初回訪問時に利用者さんやご家族から不信感を持たれることがあります。これは珍しくない経験です。対応の基本は「無理に入ろうとしない」「ケアマネジャーに相談する」「訪問のタイミングや担当者を変える選択肢を持つ」ことです。詳しくは訪問看護の初回訪問が拒否されたときをご覧ください。
まずできる一歩——見学・情報収集から
見学で肌感をつかむ
「行ってみなければわからない」は、訪問看護に関してとても当てはまる言葉です。求人票やホームページだけでは、事業所の雰囲気・オンコール体制・チームの関係性は見えません。
見学・インターンシップを受け付けている事業所は多いです。訪問同行はできなくても、スタッフ同士がどんなふうに話しているか、管理者がどういう姿勢でいるか、事務所の空気感はどうかを見るだけでも、多くのことがわかります。
見学の際に聞いておくと参考になる質問をいくつか挙げます。
- 同行訪問はどのくらいの期間ありますか?
- オンコールの当番は月何回ほどですか?
- 直行直帰はできますか?
- 新人の方が最近入職しましたか?その方はどんな経緯で来られましたか?
自分に合う事業所像を描いてみる
転職活動を始める前に、「自分はどんな働き方をしたいか」を少し整理しておくと、迷いが減ります。
- オンコールは月何回までなら許容できるか
- 通勤時間や担当エリアの希望はあるか
- 専門にしたいケアはあるか(小児・がん・精神科など)
- チームで働きたいか、ある程度独立して動きたいか
「全部理想どおり」の事業所は存在しないかもしれませんが、「これだけは譲れない」という軸があると、求人を見るときに迷いません。
現場コラム:宮田から一言
訪問看護は、「看護師としての幅が広がる」現場だと私は感じています。病棟では診断や治療の流れに沿って動くことが多いですが、訪問では「その人の生活の中でどう看護するか」を考える力が育ちます。最初は不安が大きくて当然です。でも、その不安を「わからないから調べよう」「事業所に相談しよう」に変えられる人は、意外と早く現場に慣れていきます。まず見学の一歩を踏み出してみてください。
まとめ
- 訪問看護師になるために「臨床3年以上」は法令要件ではなく、事業所の方針によって異なる
- 2024年時点で訪問看護ステーションは17,329か所、求人倍率は4.18倍と人材不足が深刻
- 未経験・ブランクでも受け入れ態勢のある事業所は増えており、ナースセンターの復職支援研修も活用できる
- オンコールや孤独感など大変な面もあるが、事業所選びで大きく環境が変わる
- まず見学・情報収集から始め、「自分に合う事業所像」を明確にしてから動くのが近道
次のステップ
気になる訪問看護ステーションがあれば、まずホームページから見学を申し込んでみましょう。「転職を決めた」わけではなく、「話を聞きに行くだけ」という気持ちで大丈夫です。その一歩が、自分に合う働き方を見つける最短ルートになります。
執筆者プロフィール
宮田浩行(みやた・ひろゆき)
看護師・介護福祉士・医療ライター。病棟看護師として8年間従事した後、医療・介護分野での執筆活動に転向。現場経験を活かし、一般読者から医療専門職まで幅広い層に向けて正確でわかりやすい情報を発信している。Kindle著者として医療介護関連書籍を多数出版。