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訪問看護AI活用ガイド|記録・報告書はどこまで任せられる?

公開: 2026年7月20日

訪問看護AI活用ガイド|記録・報告書はどこまで任せられる?
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

「訪問件数はこなせても、記録が終わらず定時に帰れない」——そんな悩みを抱える訪問看護師は少なくありません。生成AIは記録・報告書の下書きや申し送りの要約といった「作業」を手伝ってくれる可能性がある一方、アセスメントや医療判断、最終確認まで任せることはできません。この記事では、現場経験15年の看護師が、AIに任せていい業務・任せてはいけない業務の線引き、個人情報保護の注意点、小さく安全に始める導入ステップを整理します。

先に結論を一覧にしておきます。

区分内容
✅ AIに任せられる(作業)音声メモの文字起こし/S・O情報の整理・下書き/サマリー・申し送り文の草案
❌ 任せてはいけない(判断)アセスメント(SOAPのA・P)/緊急性や報告要否の判断/記録の最終確認・承認
⚠️ 始める前の条件事業所が承認していないAIに利用者情報を入れない/最初は架空データで練習する

訪問件数は増えているのに、記録に追われて利用者と向き合えない

訪問看護のニーズは年々広がっています。ところが、それを支える人手と、記録・報告書という事務作業の負担は、なかなか追いついていないのが実情です。

全国訪問看護事業協会の「訪問看護ステーション数調査」によると、令和8年4月1日時点の稼働ステーション数は20,051か所で、前年から1,297か所増えました。令和7年度中の新規開設は2,428件にのぼる一方、廃止は960件・休止は328件と、退出する事業所も多い状態が続いています。同協会の調査研究(令和7年3月公表)では、廃止理由として最も多く挙がったのは「従業員確保が困難」(22.7%)でした。ステーションは増えているのに、1つひとつの事業所を支える人材は思うように確保できていない、というのが今の訪問看護業界の姿です。

そして人手が足りない現場に重くのしかかるのが、記録・報告書の作成です。記録業務が超過勤務の大きな要因になっているという指摘は、以前から繰り返されてきました。私自身、訪問をこなすだけで精一杯で、勤務時間外まで記録作業が残っていた時期があります。利用者さんと向き合う時間を確保したいのに、記録に追われて疲弊してしまう。この矛盾を少しでも和らげる手段として、AIが注目されています。

AIは魔法の杖ではなく、ICT化という大きな流れの延長線上にある選択肢の一つです。ICT化全体の流れは訪問看護のICT化で整理しています。

AIに任せていい業務・任せてはいけない業務の線引き

AI活用でつまずきやすいのは、「どこまで任せていいのか」の線引きがあいまいなまま使い始めてしまうことです。まずはこの線を、はっきりさせておきましょう。

任せられるのは「作業」— 文字起こし・S/Oの整理・草案づくり

AIが力を発揮するのは、あくまで「作業」の部分です。

注意したいのは、SOAP形式のすべてをAIに任せられるわけではない点です。SとOは「聞いたこと・観察したこと」の整理なのでAIの下書きがなじみますが、A(アセスメント)とP(計画)は看護師が自分で書く領域です。AIの案を参考にする場合でも、元の情報と突き合わせて、自分の評価として書き直すことが前提になります。

任せてはいけないのは「判断」— アセスメント・緊急性・最終承認

利用者の状態変化をどう解釈するか、緊急訪問が必要かどうか、医師への報告が必要かどうかといった判断は、看護師の専門的な責任のもとで行うべき領域です。記録の最終確認・承認も同様で、AIが代わりに責任を負うことはできません。

研修先でよく耳にするのが、「AIが記録を書いてくれる」という誤解から、AIが出した下書きをほとんどそのまま提出しそうになった、という声です。AIはあくまで下書きまで。下書きを確認するときは、少なくとも薬剤名・用量、日時、左右の別、「〜なし」などの否定表現、そして元のメモにない内容の書き足し(AIの補完)がないかを、原文と突き合わせてチェックします。ここを省くと、時短どころか記録の信頼性を失います。

AIと看護・介護の役割分担の基本から知りたい方は、看護・介護のAI活用入門から読むのがおすすめです。

記録・報告書・申し送りでの具体的なAI活用例

訪問看護の記録には、初回訪問時に作成する記録書I、訪問の都度作成する記録書II(バイタルや病状などの経過記録)、訪問看護計画書、そして主治医へ定期的に提出する訪問看護報告書(実務上は月ごとの作成が一般的)などがあります。これらは診療報酬・介護報酬の算定根拠にもなり、実地指導や監査の対象にもなる、重みのある書類です。

記録書IIの下書きを音声から作る

この領域では専用サービスも登場しています。一例を挙げると、クラシテク社の発表では、同社のAI業務支援サービス「AIオペ」は2025年10月の提供開始以降100を超えるステーションで利用されており、2026年4月からはその一機能として、話した内容を記録書IIのSOAP形式の下書きに整形する「自動記録書Ⅱ入力」を無料提供しています(同社プレスリリースより。当ブログは特定サービスの広告・提供を受けていません)。同種の記録支援機能は複数のベンダーから登場しているので、比較検討するとよいでしょう。

病院では、佐賀県の織田病院が、電子カルテのデータから生成AIが看護サマリーの草案を作成する取り組みを、院外に通信しないオンプレミス環境で運用している例があります(IT Leaders掲載)。ただしこれは電子カルテが整った病院での事例で、訪問看護ステーションでの有効性を直接示すものではありません。規模も体制も違うため、「同じことがすぐできる」とは考えず、参考例として捉えるのが現実的です。

多職種への申し送り・情報提供文の草案

ケアマネジャーや主治医、薬剤師への申し送り・情報提供文の草案づくりも、看護師の確認・修正を前提にすれば相性のよい領域です。効果は入力の質や修正量に左右されるため「必ず時短できる」とは言えませんが、ゼロから文章を組み立てる負担は減らせる可能性があります。プロンプトの工夫など実践的なテクニックは看護記録をAIで時短で扱っています。

個人情報保護 — 承認されていないAIに利用者情報を入れない

記録とAIの相性がよいからこそ、個人情報保護の視点は欠かせません。ここを軽視すると、時短どころか大きなリスクを抱え込みます。

要配慮個人情報をAIに入力するリスク

病歴や診療情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたり、通常より厳格な取り扱いが求められます。生成AIサービスへの入力が法律上の「第三者提供」にあたるか「委託」として扱われるかは、サービスの契約内容と実際のデータの取り扱いによって変わります。いずれにしても、入力内容がAIの学習に使われるか・どこに保存されるか・いつ削除されるかは、規約で確認しておく必要があります。

個人情報保護委員会は2023年6月に生成AIサービス利用時の注意喚起を公表しています(生成AI全般向けで、医療特化ではありません)。医療分野では「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(2026年6月に第7.0版策定)が判断の土台になります。

現場のルールとしてシンプルなのは、**「事業所が承認していない一般向けAIには、個人を識別できる情報や診療・介護の内容を入力しない」**という一線です。

「マスキングすれば大丈夫」は誤解 — 匿名化の落とし穴

「氏名だけ伏せればいいのでは」と考える方もいますが、単純な氏名マスキングは、法律上の「匿名加工情報」の要件を満たすものではありません。生年月日や既往歴、居住地域といった情報の組み合わせから個人が特定できてしまう可能性は残ります。「氏名を消したから安全」という考え方には注意が必要です。

ローカルAI(オンプレミス)という選択肢

リスクを下げる選択肢の一つが、外部に通信せず内部で完結するローカルAI(オンプレミス環境)です。ただし、ローカルなら無条件に安全というわけではありません。端末の管理、アクセス権限、バックアップの扱いといった運用は変わらず必要ですし、導入・運用コストもかかります。多くの事業所にとっては、まず入力ルールを整えることが現実的な第一歩です。ローカルAIの仕組みと選び方は医療・介護のローカルAIとプライバシーで詳しく解説しています。

小さく始める導入ステップ

まず1人で — 架空データで「3ステップ」を体験する

いきなり実在の利用者情報で試すのは避けてください。最初は、研修用に作った架空の症例メモで、「音声で吹き込む → AIがS・Oの下書きに整形 → 自分で確認・修正」という3ステップを体験するのがおすすめです。音声入力は、利用者宅での会話の録音ではなく、訪問後に自分の言葉で吹き込む「自己口述」から始めれば、録音の同意や音声データ管理の問題を持ち込まずに済みます。一度体験すると、AIが得意な部分と、自分が最後まで責任を持つべき部分の感覚がつかめます。

ステーションとして始めるなら — 入力ルールと確認体制が先

組織として導入する場合は、ツール選びより先にルールを決めます。管理者が最低限確認しておきたいのは次の点です。

そのうえで、いきなり全員展開せず、2〜4週間ほどの試行期間で「記録にかかる時間」「下書きの修正量」「ヒヤリとした点」を確認してから広げると安全です。研修の設計手順は、施設向けに書いた介護施設のAI研修が参考になります(組織導入の考え方は訪問看護でも共通です)。

導入コストの面では、都道府県が実施する「介護テクノロジー導入・定着支援事業」などの補助制度があります。訪問看護ステーションが対象になるかどうかや要件は都道府県・年度により異なるため、個別の確認が必要です。

なお、診療報酬でもICT・情報連携を評価する流れが続いています。2024年度改定で訪問看護医療DX情報活用加算(月1回50円)が新設され、2026年度改定では訪問看護医療情報連携加算(月1回1,000円。ICTでの診療情報取得・連携体制などの要件あり)や、訪問看護遠隔診療補助料(1日につき2,650円・月1回限度。主治医の指示による緊急時のオンライン診療補助)が加わりました。これらはICT連携やオンライン診療支援への評価であり、生成AIで記録を作れば算定できるという性質のものではありませんが、業界全体がデジタル活用へ向かっている流れを示すものといえます。

まとめ — AIに任せるのは「作業」、任せないのは「判断」

生成AIは、音声メモの文字起こしやS・O情報の整理、サマリーや申し送りの草案づくりといった「作業」の負担を減らせる可能性があります。一方で、アセスメントと計画、緊急性の判断、記録の最終確認・承認といった「判断」は、これまでどおり看護師の専門性と責任のもとで行うものです。

個人情報保護の観点では、「事業所が承認していない一般向けAIには、個人を識別できる情報や診療・介護の内容を入力しない」という一線を先に決めておくことが欠かせません。AIは記録を「書いてくれる」のではなく、下書きを「手伝ってくれる」存在——そう捉えると、線引きを見誤りにくくなります。

次のステップ

まずは架空の症例メモを1つ作って、「音声入力 → AI下書き → 自分で確認・修正」の3ステップを試してみましょう。実在の利用者情報を入れないこと。それが、安全にAIと付き合う最初の一歩です。


参考資料(最終確認日: 2026年7月20日)

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