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認知症ケア

認知症の幻視「いない人が見える」|否定しない対応を看護師が解説

公開: 2026年6月20日

認知症の幻視「いない人が見える」|否定しない対応を看護師が解説
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 症状や対応については、主治医・かかりつけ医、または専門の相談窓口にご相談ください。

「お母さんが急に『そこに知らない子どもがいる』と言いだして、どう返せばいいかわからなかった」

そんな経験がある方は、きっと少なくないと思います。

否定すると怒り出す。かといって「そうだね」と合わせるのも正直なのか不安になる。どうすればよかったのか。夜になってもぐるぐると考えてしまう——。

そんな方に向けて、この記事を書きました。

この記事でわかること:


幻視とは何か——本人には、本当に見えています

まず、大切なことをひとつお伝えします。

ご本人には、本当に見えています。

幻視とは、実際にはないものが視覚的に知覚される症状です。「気のせい」でも「嘘をついている」でも「おかしくなった」でもありません。脳の情報処理のしくみに変化が起き、存在しないものが実際に見えている状態です。

だから本人は怖がる。驚く。訴える。それはごく自然な反応です。

「幻視」と「妄想」は別もの

家族からの相談でよく混同されるのが、この2つです。

**幻視は「知覚の異常」**です。実際に目に見えてしまう。目の前に人がいる、虫がいる、煙が見える——これが幻視です。

**妄想は「思考の異常」**です。現実に基づかない考えが固定化してしまう状態で、「誰かに盗まれた」という被害妄想や、「毒を入れられた」という被毒妄想などがその例です。幻視が引き金になって妄想につながることもありますが、もともと別の症状です。

被毒妄想(薬や食事に毒を入れられたという訴え)についてはこちらの記事で、「あなたは偽物」という人物誤認(カプグラ症候群)についてはこちらの記事で、それぞれ詳しく解説しています。


どんな認知症に多い?——レビー小体型認知症を知ってほしい

幻視は、すべての認知症で起きうる症状ですが、特に多いのが**レビー小体型認知症(DLB:Dementia with Lewy Bodies)**です。

2019年に発表されたメタ分析(Eversfield & Orton, Psychological Medicine)によると、DLBの患者さんの**61.8%**に幻視がみられたと報告されています。DLBでは「繰り返し現れる、はっきりした内容の幻視」が中核症状のひとつとされており(McKeith診断基準 2017年改訂)、診断の早い段階から高い頻度で現れることが知られています。

DLBは、アルツハイマー型認知症に次いで多い変性性の認知症のひとつとされています(認知症全体に占める割合は報告によって幅があります)。「うちはアルツハイマーと言われたのに幻視が出た」という場合も、DLBが合併しているケースや、後にDLBと診断が見直されるケースがあります。

幻視が悪化しやすいタイミング

幻視はいつも同じ強さで現れるわけではなく、悪化しやすい条件があります。

「せん妄」を疑うサイン——これは様子見しないで

幻視のなかでも特に注意したいのが、せん妄との見分けです。せん妄は体の不調が引き金で起きる一時的な意識の混乱で、治療できることが多く、早めの対応が必要な状態です。

次のような特徴があるときは、せん妄の可能性が高いと考えてください。

これらに当てはまるときは、いつもの幻視と決めつけず、まず体の状態を確認し、早めにかかりつけ医へ相談してください。一方で、同じような幻視が以前から繰り返し続いている場合は、慢性的な症状の可能性が高くなります。迷ったときは、早めに相談するほうが安心です。


「否定しないで」だけでは足りない——第三の返し方

「否定しないように」とはよく言われます。でも、だからといって「そうだね、いるね」と合わせ続けるのも、なんだか違う気がする——その感覚は正しいと思います。

実は「否定」と「同調」の間に、第三の返し方があります。見えているものの有無を議論するのではなく、その人の”気持ち”に寄り添うやり方です。

感情を受けとめる声かけ

幻視に動揺しているご本人に、まず届けてほしいのは感情への共感です。

「怖かったね。大丈夫だよ、そばにいるよ」
「びっくりしたね。何かいた?」
「そっか、見えたんだね。今はここにいないみたいだね」

「いる/いない」の議論をするのではなく、**「あなたが感じていることを受けとめている」**というメッセージを届けることが、本人の安心につながります。

「苦痛のない幻視」は無理に消さなくてよい——ただし境界があります

亡くなったご家族が訪ねてくる、子どもの頃の友だちと話している——こういった幻視は、本人にとって苦痛どころか、心の支えになっている場合があります。

「そんなはずない、お父さんはもう亡くなってるよ」と否定することで、かえって本人を傷つけてしまうことがあります。本人が怖がっていない幻視であれば、無理に消そうとしなくていい。それは、ケアの放棄ではなく、本人の気持ちを尊重する判断です。

ただし、次のような場合は「無理に消さなくていい」の例外です。早めに専門職へ相談してください。

苦痛や危険があるかどうかが、見守ってよいか相談すべきかの分かれ目です。


今日から試せる「環境調整」——目に見える工夫

幻視は、環境を整えることで頻度や感じ方がやわらぐことがあります。薬を使わない、リスクの低い工夫なので、今日から家庭で試せます(効果には個人差があります)。

光と影を見直す

「柄もの」に気をつける

カーペット・壁紙・カーテンに複雑な柄があると、それが人の顔や虫に見えてしまうことがあります。これはパレイドリア(模様や影など、あいまいなものを人の顔や生き物として知覚する現象)と呼ばれ、認知症のない人でも起こりますが、DLBではより現れやすいとされています。

シンプルな無地のラグやカーテンに替えるだけで、幻視の訴えが減ったという事例は珍しくありません。試してみる価値がある工夫です。

鏡を隠す・向きを変える

鏡に映った自分の姿を「知らない人がいる」と感じてしまうことがあります。洗面台や廊下の姿見がないか確認してみてください。布をかけるか、向きを変えるだけで対応できます。


現場でよく見る「NG対応」と、そのかわりに

私が看護師・介護福祉士として現場に関わってきた15年間で、家族から「こう言ったら逆に悪化してしまった」と後悔する話をよく聞いてきました。悪意のある行動はひとつもなく、ただ、どうしていいかわからなかっただけです。

代表的なNG対応と、代わりに試せる関わりをまとめます。

NG対応本人への影響代わりに試せること
「そんな人いないよ」と強く否定する混乱・興奮・不信感感情を受けとめる言葉がけ
一緒に「いるね」と同調し続ける不安が強まることがある「今はいなくなったみたいだね」と穏やかに転換
「気のせいでしょ」と流す孤独感・訴えの増加「見えたんだね、びっくりしたね」と受けとめる
一人の部屋に置いておく幻視の訴えが増えることがある人がいる場所に一緒にいる

「正しい対応」よりも「その人が安心できる対応」を探す気持ちで関わることが、長続きするケアの土台です。合わなければ、別の方法を試せばいい。正解はひとつではありません。


家族自身のケアを忘れないでほしい

長寿科学振興財団がまとめた調査(2018年・約2,400名対象)では、家族介護者の**42.9%が精神的な負担を「強く感じている」と回答しています。また、在宅で介護を担う方の63.5%**が老老介護(介護する側も65歳以上)という現状もあります(厚生労働省・2022年国民生活基礎調査)。

「いないものが見える」と繰り返し訴える家族に毎日向き合うのは、体力的にも精神的にも消耗します。

「うまく対応できなかった」と自分を責める必要はありません。専門家でも難しい対応を、知識もなく一人でやっていること自体が、すでに大変なことです。現場でも、いちばんつらそうだったのは「誰にも話せていなかった」という方でした。相談した途端に表情がやわらぐ場面を、何度も見てきました。

相談先を持っておく

一人で抱え込まないために、地域の相談先をひとつ知っておくだけで、心の余裕が違います。

「介護疲れを感じたら…」という方には、こちらの記事も参考にしてみてください。


受診と「薬」について——専門医との相談が欠かせない理由

幻視があっても、本人が比較的穏やかで生活に大きな支障がない場合は、すぐに緊急受診が必要というわけではありません。一方で、先ほどのせん妄のサイン(急な悪化・発熱・ぼんやり・新しい薬の後など)があるときや、本人が強く怖がる・攻撃的になる・眠れないといったときは、できるだけ早く医療機関か担当医に相談してください。

「認知症と診断されているが、まだ幻視についての説明を受けていない」という方は、一度かかりつけ医や神経内科・精神科に相談すると、現状の整理と対応のアドバイスが得られます。初期症状や受診のタイミングについてはこちらの記事も参考にしてください。

「薬で止めてほしい」の前に知っておいてほしいこと

「幻視があるので薬を出してほしい」という相談も少なくありません。

ただし、特にレビー小体型認知症では、薬の選択に細心の注意が必要です。DLBの方は一部の抗精神病薬に対して過敏に反応することが知られており、McKeithらの報告では、抗精神病薬を使ったDLB患者の約半数に、認知機能の低下・体のこわばり・強い眠気などの重い反応がみられ、命に関わるリスクが高まったとされています。

こうした背景から、認知症にともなう行動・心理症状(BPSD)への対応をまとめた国内の専門家向けガイドライン(2025年6月に改訂された第3版・日本認知症学会ほか6学会監修)でも、まず薬に頼らず、環境調整や関わり方の工夫といった対応を優先することが示されています。薬が必要な場合も、専門医が状態を見極めて慎重に判断するものです。

大切なのは、自己判断で市販薬を使ったり、薬の中止や追加を求めたりしないこと。「この薬を飲めば治る」「この薬は危ない」とインターネット情報だけで決めず、必ず主治医や専門医に相談してください。


まとめ

一番伝えたいのは、「完璧な対応をしなくていい」ということです。本人に寄り添おうとしているその気持ちが、すでにケアになっています。

まず1つだけ試すとすれば——今夜、お部屋の照明を少し明るくするか、鏡に布をかけてみてください。それだけで、夜の穏やかさにつながることがあります。もし「受診が必要かも」と感じたら、地域包括支援センターへの電話を今週中に1本かけてみてください。相談するだけでも、気持ちが軽くなります。


参考文献

免責事項: この記事は医療・介護の一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状の判断や治療・薬の選択については、必ず医師や専門医にご相談ください。記事内容は執筆時点の情報に基づいています。


執筆者:宮田浩行(看護師・介護福祉士)

看護師8年・介護福祉士7年、計15年の現場経験をもとに、医療・介護分野の情報をわかりやすく発信しています。
X: @miyata8hiroyuki

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