「ケアプラン作成をAIに任せていいのだろうか」——そう感じているケアマネジャーや介護職の方は少なくないはずです。厚生労働省の検討会でも、ケアプラン原案の作成に生成AIを活用する方向性が示されました。一方で「最終的な決定はAIにはできない」という明確な見解も示されています。現場15年の視点から、AIに任せていい業務と、人にしか担えない判断を整理します。
ケアプラン作成にAIを使う動き、現場が抱く期待と不安
厚労省がケアプラン原案への生成AI活用を示した背景
2025年4月10日、厚生労働省は検討会において「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する中間とりまとめ」を公表しました。この中で、ケアプランやサービス担当者会議の議事録といった書類の原案作成に生成AIを活用する方向性が示されています。
背景にあるのは深刻な人手不足です。厚労省が公表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2024年7月公表)によると、介護職員の必要数は2026年度に約240万人(2022年度比+約25万人)、2040年度には約272万人(同+約57万人)に達する見込みです。書類作成に割く時間を減らし、人にしかできない支援に回そうという発想は、決して不自然なものではありません。
なお、本記事で紹介する数値は2023年10月から2026年1月にかけて公表された資料に基づきます。次期介護報酬改定は2027年度に予定されており、AI活用をめぐる施策の詳細は今後見直される可能性がある点にご留意ください。
現場が抱く「期待」と「不安」の両方
介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査」では、介護支援専門員(ケアマネジャー、以下ケアマネ)の離職率は10.0%、平均勤続年数は8.5年という結果が出ています。書類作成の負担が軽くなるなら助かる、という期待の声が現場にあるのは自然なことでしょう。
一方で不安もあります。パパゲーノ株式会社が実施した調査(東京新聞×PR TIMES掲載、2025年)では、介護・障害福祉の現場を対象に、**生成AI利用の明確なルールがある職場は19.8%**にとどまるという結果が出ています(調査対象はケアマネジャーに限定されません)。「便利そうだけれど、どこまで使っていいのか分からない」という戸惑いが、多くの事業所に残っているのが実情です。
AI活用の全体像を先に押さえておきたい方は、看護・介護のAI活用入門もあわせてご覧ください。ケアプラン以外の場面でAIがどう使われているかが分かります。
そもそもケアプランとは何か/AIが入りうる工程
ケアプランの法定プロセス(家族向け補足)
ここで一度、ケアプランの基本を確認しておきます。ケアプラン(介護サービス計画書)は、要介護1〜5の認定を受けた方が介護保険サービスを利用するために必須となる計画書です。
※要支援1・2の方の介護予防サービス計画は、主に地域包括支援センターが作成します。
作成の流れは、ケアマネによる本人・家族との面接(アセスメント)から始まり、原案作成、サービス担当者会議での関係者間の調整を経て、本人・家族への交付、そして毎月のモニタリングへと続きます。「AIがケアプランを作る」という表現は誤解を招きやすいのですが、実際にAIが関わり得るのはこの一連のプロセスの一部にすぎません。
プロセスのどこにAIが入り得るか
現時点でAIが担い得るのは、原案作成の文例づくり、議事録の作成、過去記録の検索・要約といった事務的な工程に限られます。アセスメントの最終判断や意思決定は対象外です。ただし、面接で得た情報の整理や記録の要約といった補助的な作業は、AIが担い得る範囲に含まれます(この点は後述します)。
老人保健健康増進等事業として実施された、AIを活用したケアプラン作成支援に関する調査研究でも、全国のケアプランデータをもとに文例候補を提示する仕組みが検証されていますが、あくまで文例支援の域にとどまるものとされています。AIは「たたき台」を出す役割であり、決定するのはケアマネだという前提は、制度設計の段階から変わっていません。
AIが得意な部分——業務負担を軽くする場面
下書き・文例のたたき台作成
アセスメントで得た情報をもとに、ケアプランの目標や支援内容を文章化する作業には、一定のパターンがあります。AIに要点を入力すると、文例のたたき台が短時間で出てくるため、ゼロから文章を組み立てるより負担は軽くなります。ただし、そのまま使えるかどうかは別問題です。この点は後の章で改めて触れます。
アセスメント支援・知識の補完
静岡県が実施した「令和6年度ケアマネジメント業務AI導入支援事業」の実証結果は、参考になる数字を示しています。参加したケアマネのうち34.2%がアセスメント時間の短縮を、**97.4%が「知識を補完する効果」**を実感したと回答しました。
※静岡県内の13事業所・数十人規模のアンケート結果で、全国の傾向を示すものではありません。
面接記録や会議の議事録を要約する作業についても、AIが役立つ場面はあります。長い録音やメモを要点だけにまとめてくれれば、確認や共有にかかる時間を短縮できる場合があります。
過去記録の検索・知識補完
似たようなケースの過去記録を探したり、制度や加算の要件を確認したりする場面でも、AIが役立つ場面があります。ただし介護報酬・加算の要件は誤りの影響が大きいため、必ず厚労省の通知やQ&A、自治体の資料など原典で確認することが前提です。ここで大切なのは、これが**「知識の補完」であって「判断の代替」ではない**という区別です。AIが示すのはあくまで参考情報であり、それを踏まえてどう判断するかは、最終的にケアマネ自身が担う仕事です。
民間の「〇%削減」表示への注意
一部の民間サービスでは「作成時間を大幅に削減」などとうたう訴求が見られます。こうした数字は、提供事業者による自社実績やプロモーション目的の数値であることが多く、行政や第三者機関による検証を経たものではない点に注意が必要です。導入を検討する際は、根拠となるデータの出所を確認する姿勢が欠かせません。
人にしか残せない部分——厚労省も明言する「決定はAIにできない」
厚労省担当者の見解
ここまでAIが得意な部分を見てきましたが、この記事で最も伝えたいのはここからです。介護ニュースJoint(2023年10月23日)によると、日本介護支援専門員協会の全国大会における基調講演で、厚生労働省の担当課長(認知症施策・地域介護推進課)は次のように述べています。
「AIがどれほど進もうが、それによって文章が綺麗にできようが、ケアプランを決定し、人に勧めるということはAIには絶対にできない」
ケアマネジャーの役割は変わらないとの認識も示されました。この発言は2023年のものですが、AI活用を推進する政策文書が出た現在も、決定権は人にあるという認識は一貫しています。
言葉にならない機微・生活歴・家族関係
「大丈夫です」と答えた利用者が、その直後にふっと視線をそらす。長く現場に立っていると、こうした一瞬に何度も出会います。言葉と表情が一致しないとき、そこには本人が言い出せない事情が隠れていることが少なくありません。
家族が同席している面接では、本人が本音を飲み込んでしまう場面もあります。生活歴や家族間の力関係、口には出せない遠慮——こうした情報は、対面でのやり取りを重ねる中でしか拾えないものではないでしょうか。テキストとして記録に残らない機微こそ、AIが最も苦手とする領域だといえます。
倫理的判断と責任の所在
本人の希望と家族の希望が食い違うとき、どちらを優先するか、どう折り合いをつけるか。こうした調整は、制度や過去の類似事例をいくら参照しても、最終的には人が判断するしかない領域です。
加えて、ケアプランを交付し、内容について説明する責任は制度上ケアマネジャーに帰属します。この責任をAIに移すことはできません。AIが文例を出すことと、その内容に責任を持って本人・家族に説明することは、まったく別の行為だという理解が欠かせないでしょう。
現場での上手な付き合い方——AIは下書き役、判断は人
ダブルチェックの原則
AIが出してくる文例は、それだけを読むと違和感なく整っています。しかし、本人が実際に話した言葉と照らし合わせると、微妙にニュアンスがずれていることがあります。私自身、現場でそうした場面に立ち会った経験があります。AIの文例をそのまま使いかけて、あとから「これは本人の言葉とは少し違う」と気づき、ヒヤリとした——という声は、現場でもよく聞かれる話です。
AIの文例や要約は、必ず本人・家族の言葉と照合し、ケアマネが加筆修正することが原則です。便利さに引っ張られて確認を省略しないことが、結局は自分自身を守ることにもつながります。
個人情報の扱い——無料版公開AIは避ける
ケアプランには、心身の状態や家族関係といった要配慮個人情報が多く含まれます。サービスの規約や設定によっては、入力した情報が事業者側に保存され、AIの学習に利用される可能性があります。
現時点では、こうした情報を安心して扱える基盤は発展途上だといえます。国民健康保険中央会によると、2026年1月時点でケアプランデータ連携システムを利用している事業所は19,283事業所、普及率は概ね7〜8%にとどまります。業務のインフラ自体がまだ整備の途中であることを踏まえると、個人情報を含む内容を扱う際は、学習に使わない設定(オプトアウト)の有無やデータの保存ポリシーを確認したうえで、非公開契約のサービスやローカルで動くAIの利用を検討する方が現実的でしょう。この分野の考え方は、医療・介護分野でのローカルAI活用と個人情報保護で詳しく整理していますので、導入を検討している方はあわせてご参照ください。
家族の負担軽減という視点
AI活用の効果は、ケアマネや介護職の負担軽減だけにとどまりません。書類作成にかかる時間が減れば、その分だけ本人や家族と向き合う時間に回せる可能性があります。在宅で介護を担うご家族にとっても、ケアマネとじっくり話せる時間が増えることは、決して小さな意味を持ちません。在宅介護がどのような場面で行き詰まりやすいかについては、在宅介護の限界で具体的に取り上げていますので、ご家族の方はぜひ参考にしてください。
訪問系サービスとの連携という広がり
ケアプラン作成にとどまらず、訪問看護や訪問介護の現場でもICT化やAI活用の動きが広がっています。記録の共有や情報連携がスムーズになれば、ケアマネと訪問系サービスとの連携の質そのものが上がっていく可能性があります。この流れについては、訪問看護のICT化で詳しく紹介していますので、あわせてご覧いただくと理解が深まるはずです。
まとめ——AIで浮いた時間を「人にしか拾えないケア」に
記事の要点整理
ここまでの内容を整理すると、AIが得意なのは下書き・要約・検索といった事務的な工程です。一方で、本人の意向確認、言葉にならない機微の読み取り、最終的な判断は、これからも人が担う領域として残ります。厚労省の担当課長も「決定はAIにはできない」と述べており、現時点では、この線引きが前提になっていると考えてよいでしょう。
| AIに任せていい(下書き・要約・検索) | 人が担う(意向確認・機微の読み取り・最終判断と責任) |
|---|---|
| ケアプラン原案の文例づくり | 本人・家族の意向確認とすり合わせ |
| 議事録・面接記録の要約 | 表情や沈黙など言葉にならない機微の読み取り |
| 過去記録・制度情報の検索 | サービス内容の最終決定と説明責任 |
前向きな締め
AIをどこまで使うかは、事業所や個人の状況によって答えが変わってよいはずです。大切なのは、AIに任せていい部分と、人が責任を持つべき部分を、自分の現場に照らして考えてみることではないでしょうか。書類作業から少しでも解放された時間を、目の前の利用者やご家族と向き合う時間に回せたなら、それは決して悪いことではないはずです。
よくある質問
Q. AIでケアプランを自動作成できますか?
A. 現時点では、AIが担えるのは原案の下書き支援までです。ケアプランの決定や本人・家族への提案は、引き続きケアマネジャーが担う必要があります。
Q. 無料の公開AIに利用者情報を入力してもよいですか?
A. サービスの規約や設定次第で、入力情報が保存・学習に使われることがあります。要配慮個人情報を含む内容は入力を避け、非公開契約やローカルAIの利用を検討することをおすすめします。
Q. 家族はAIが使われているとき、何を確認すればよいですか?
A. ケアプランの文言が本人の希望を正確に反映しているか、AIに個人情報を入力する場合は同意を得ているかを確認するとよいでしょう。気になる点があれば、遠慮なくケアマネに尋ねてみてください。
次のステップ
AI活用を始めてみたい方は、まず判断を伴わない業務——議事録や記録の要約——から試してみてはいかがでしょうか。その際は、個人情報の扱いに注意し、無料の公開型AIではなく非公開契約のサービスやローカルAIを選ぶことをおすすめします。小さな一歩から、自分の現場に合った付き合い方を見つけていただければと思います。
参考資料
- 厚生労働省「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方に関する中間とりまとめ」(2025年4月)
- 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2024年7月)
- 介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査」
- 静岡県「令和6年度ケアマネジメント業務AI導入支援事業」
- パパゲーノ株式会社 生成AI活用調査(東京新聞×PR TIMES掲載、2025年)
- 介護ニュースJoint(2023年10月23日)
- 国民健康保険中央会 ケアプランデータ連携システム利用状況